シニカルで乾いた
笑いのエッセンスを!
池田萌
Moe Ikeda
転機はゆうばり映画祭。実写制作の世界観に惹かれて
幼い頃の池田さんはどんな方でしたか?
今の姿からは意外だと言われるんですが、いつも外で遊んでいる野生児で、家の近くに秘密基地をいくつも作っていました。あとは、家族が下北沢の小劇場に舞台を見に行くのが好きで、私もよく行っていました。
今の仕事につながるような思い出はありますか?
小学生の頃に自宅にあったホームビデオに触れて、それはもうすっごく夢中になりました。友達を撮影したり、舞台役者をしている大人の知り合いに道端でアクション劇をしてもらって、私が「カット!」と指示を出す…など、本当にふざけたことをしていました。子どもの遊びに本気で付き合ってくれる大人が周りに多くて、それは今思うとありがたいことだったなと思います。そういう大人たちの姿を見てきたことも、この仕事を目指す何かひとつのきっかけになっていると思います。
高校卒業後はデザインの道を志したと伺いました。
学生時代はグラフィックデザインの勉強をしていました。自由制作の授業の中で短編のアニメーション作品を作ったところ、入選し、ゆうばりの映画祭に呼んでいただきました。
その年は大林宣彦監督がゲストで来ていて、もう本当ミーハーでお恥ずかしいんですが「このお歳でこんなに楽しそうな姿!かっこいい!!」と興奮しましたね。
また、映画を製作しているチームの方々は特に惹かれる存在でした。脚本にキャストの個性や、演技の力が加わり、それが相乗効果となって作品がさらにパワーアップする実写の魅力や、大勢で取り組む姿がすごくうらやましいと思って、映像の世界への憧れが強くなったのは今でも覚えています。
それでも目指した業界が”映画”じゃなかった理由は、私は制約がある中で”お題”に対して答えていくのがまず好きだったこと。それと、何かの本来の価値や、まだ世の中の人が気付いていないことを面白く伝えるとか、そういうことに興味があったので広告業界に繋がりました。
1日5本の企画打ち 落選作品も再考
その後、太陽企画に入社されています。
実技試験は本当に面白かったです!でも面接はとにかく緊張しましたね。最終社長面接後の雨の中、母親に「落ちた」と報告の電話をしながら帰ったのが懐かしい記憶です。それくらい手応えはなかったんです(笑)。
とはいえ見事採用になり、山本真也さんをはじめCM業界の一線で活躍されているディレクター陣の仲間入りをしています。
ここまでいろいろと自由にやってこられたのはなによりも真也さんの包容力のおかげですね。入社後、「池田は不安定なところが面白いから採用した」という最高の褒め言葉を頂きました。それにしても、自分が子どもの頃見ていたCMを作っている人が、いまだに子ども心を持っているんですよ。入社したばかりのころ、「30年やっていても、同じことが1回もおこらないから飽きない」と仰っていましたが、そんな人が自分の上司だと思うと最高ですし、同時に私は本当に運がいいなと思います(笑)。
太陽企画の先輩方とのエピソードで印象的なものがあれば教えてください。
入社1年目にJAC AWARDに挑戦して、結果的に企画で落選してしまい撮影までは至らなかったのですが、当時一番近い先輩だった泉田岳さんに「どうやったらもっとよくなるか考え抜かないと意味がない」と言われて、なぜ落選したか、どうすればよかったかを徹底的に考え直すために再企画作業に付き合っていただいたことです。夜にスタートして朝日とともに新しいコンテを書き終えました。初めに提出した企画と全く異なる作品ができたのですが、「同じテーマでここまで広がるんだ。逆にこのくらい間口を広げないといけないんだ」ということを学びました。ちなみに朝方できた新しい企画の内容は、おばけやしきに行くカップルの話です。ビビリの彼氏と男勝りな彼女。彼がいちいち驚く姿をみて彼女はうっとうしく思う一方で、「あいつスゲーいい客だな」「俺たちすげえ幸せだな」と喜ぶおばけたちが、二人を見送る。という内容のものでした。このインタビューにあたり久しぶりにコンテを見返しましたが、なんだかしみじみ良いものができたなと思いました(笑)。泉田さんには「池田、自分の企画の良さを自分で理解してる?してないだろ」という言葉も言われたことがありましたが、今も時々思い出すと気が引き締まります。相談するといつも長時間付き合って頂いたのが印象深く、本当に尊敬しています。
池田監督の世界観や作品の方向性を、ご自身の言葉で表すとしたら?
昔から、笑いが入っているものが好きで、笑いといっても急に「ドッカン!」ではなく、じわじわと言いますか。乾いたシニカルな笑いの方が自分との相性がいいなと感じています。
惹かれるのは、「身近にいそう」な、素朴な雰囲気のキャスト
2018年のリマーカブルでは作品『2人の男』で見事「ベストリマーカブル・ディレクター・オブ・ザ・イヤー」を受賞されています。自由という難しいテーマを、池田さんらしい〝笑いの要素“や〝画作り”で表現されています。
「2人の男」
小林さんの全てを悟っているような、力の抜けた笑い方がかっこよかったですね。カメラマンの菅さんと「あ~…!(今のきた!)」と通じ合った瞬間があったと勝手に思っております。2人の登場人物に関してはどちらもオーディションで選ぼうと思っていたのですが、ベテラン俳優である小林勝也さんが依頼を受けてくださって。キャスティングの方も「小林さんにオッケーもらいました!!」と興奮していらして、これは本当にすごいことなんだな…と。もう一人の若手役者の松浦慎太郎さんは、まさに私が描きたかった真面目で控えめなキャラクターそのもので、こちらはオーディションで選ばせていただきました。
縁側で佇んでいる二人のリアルさが表現されていたと思います。
偶然なのですが、小林さんと松浦さんはどちらも文学座に所属されていて、小林さんはもちろん大ベテランですが、松浦さんはまだ研究生ということを伺いました。だからこそ、松浦さんが大先輩の前で緊張している空気感であったり、尊敬している想いみたいなものがいい具合に投影されていたと感じます。
池田さんの作品におけるキャスティングへのこだわりは?
そこを決め手にしているつもりは全くなかったのですが、演技していない素のときの佇まいが素朴で、控えめな方を選ぶ傾向がある気がします。もちろん内なるパッションはあって欲しいですけど、もっとアンニュイな感じとか、どこか垢抜けなさがある方がリアルだなぁと思って。イー・スピリットさんとご一緒した案件もその視点があって、子役のキャストを選ばせていただきましたね。その一方で伸び伸びしていたり、愛嬌がある方やどこかしたたかだったり、ふてぶてしさを感じる人も子どもみたいで魅力的です。あとは全体のバランスを見て、ですね。
注目している俳優さんはいますか。
お仕事でご一緒したことがある、芋生悠さん。一言オファーするとクールに「わかりました」と言って演技の幅を広げてくださるんです。色々な役ができるけど、芯があってもう本当に素敵ですね。
これからやりたいと考えている仕事や今後の夢などは?
やってみたいのは色々あるのですが、ちょっと今普通にやってみたいなと思いついたのが、すっごいブラックユーモアな作品(笑)。これまでやったことがないので。あと、実はドキュメントにも興味があります。先日大分県で、家庭で撮影した8ミリフィルムを集め、音を付け直して編集したドキュメンタリー映画「竹田ん宝もん」の上映イベントがあり、弊社の犬竹副社長に声をかけてもらってお手伝いに行きました。地域の方、特にお年寄りがとても喜んでくださって、このような映像の力もあることを改めて実感しました。本当に湧き上がってくる感動や笑いみたいなものを間近で見て、そこにある愛やリアルな姿に心動かされるものがあり、まさに”映像の力”を体感した瞬間でした。私もいつかそれくらい人の気持ちを動かせる強い作品を作りたいと思っています!
映画「竹田ん宝もん」ドキュメンタリー予告
ブラックユーモアとドキュメンタリー。対極にある表現なので、とても興味深いですね。池田さんが生み出す世界観を今後も楽しみにしています。本日はありがとうございました!
池田萌
Moe Ikeda
1991年東京都生まれ。
2014年太陽企画入社。
――受賞歴――
2013年ゆうばり国際ファンタスティック映画 インターナショナル・ショートコンペ部門 入賞
2018年 JAC AWARD「ベストリマーカブル・ディレクター・オブ・ザ・イヤー」受賞