監督と役者の二刀流
「どっちもやったらええやん」の
開き直りがターニングポイントになった
アベラヒデノブ
Hidenobu Abera
いじめ、未完の作品の蓄積を経て
ファンタジア国際映画祭他多数の映画賞を受賞
幼少期の監督はどんなお子さんでしたか?
とにもかくにも絵を描くのが好きな子どもで、紙とペンさえあれば自分の世界に入れるタイプでした。
高1のときに実際ガチのいじめにあって、高校時代は引きこもっていました。昼夜逆転みたいな生活だったので、眠れない夜は深夜の映画番組を見て、
その世界に没頭することで現実逃避していたように思います。
そんな中でも将来や進路を考えないといけない。引きこもったままできる仕事として小説家を目指すか、大学に行って映画を学ぶか、悶々としていました。
結果として、大阪芸術大学に入学して映像を専攻されていますね。
映画に関わる仕事は色々ありますが、コミュ症だった自分でも脚本ならやれるかもしれないと思いました。
1年からハンディカム据置で行きかう人を撮った自主作品を作ったりしていて、「こんなアイデア誰も思いつかへん!自分は天才や!」と無駄な自信を持ちながらも、
作品を完成させるには至りませんでした。
一方、授業では当然チームで制作をしていくんですが、2年の時に16mmフィルムで作った10分の短編映画で監督・脚本を担当することになって。
出来はともかく、これまで漫画を書いたり小説のようなものを書いてもどれも中途半端だった自分にとって、
人生ではじめて完成させることのできた作品だったんです。成功体験でしたし、自分の「よ~い、スタート!」の声に酔いしれていたことも事実です(笑)。
ファンタジア国際映画祭など数々の映画賞で入賞し、YouTubeでは380万PVと評価されている 『死にたすぎるハダカ』の制作秘話を教えてください。
モントリオール ファンタジア国際映画祭で入賞しました。
映画祭に招待されて、有名俳優と会話したり、サインを求められたリして、もう、「売れた!俺、売れたで!」ですよ(笑)。相当舞い上がりました。
映画と広告のギャップに悩み
撮れない時期に見出した希望
「売れた!」(笑)。まさにシンデレラストーリーですね。
『死にたすぎるハダカ』がきっかけとなって知り合った映画監督・藤井道人さんとのご縁でBABEL LABEL(バベルレーベル)に所属できることになりました。
当初はディレクターズチームだったので、アシスタント経験などをすることなく、ディレクターとしてワークショップ映画やショートフィルムを撮っていました。
コアラのマーチのショートフィルム『MY NAME』を撮ったり、『めちゃくちゃなステップで』という作品がSHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA 2015で
グランプリを受賞し、その翌年には足立梨花さん主演の『ブーケなんていらない!』を撮らせてもらったり。
役者としても声をかけてもらうこともあって、しばらくは登り調子が続いていました。
ところが「売れた!」という手ごたえは長続きしませんでした。全然撮れない時期がやって来たんです。
撮れなくなったのは何が原因だったのでしょうか?
BABEL LABELでの仕事がワークショップ映画から商業的な広告やミュージックビデオの制作に移行していたこともあって、
フィールドが変わると撮り方がわからなくなりました。10人キャストが出ることが決まっている企画では「全員を平等に出すこと」に躍起になったり、
今までやっていた描き方ができなくなったり…。自分のやりたいことも見失っていきました。
「撮れない不安」に抗うために自主映画を撮ったりもしました。キャストは全員友達で、主演は自分だとか。
役者に比重を置こうかなども考えて、積極的にオーディションを受け始めたのもこの頃です。キャストとしてはいろんな現場に行く機会は増えていたのですが、
その頃藤井道人さんは映画監督として大活躍していて、「僕はダメや。求められへんのやな」って落ち込んでいました。
苦しい時期をどのように乗り越えましたか。
PANというバンドとご縁があって『想像だけで素晴らしいんだ -GO TO THE FUTURE-』という長編を撮らせてもらったことと、
BABEL LABEL製作で『LAPSE(ラプス)』という商業映画を撮ったことが転機かなと思います。
オムニバス3編の中の「失敗人間ヒトシジュニア」で自ら主演しました。というのも、僕が監督と俳優の両方をやっていることに対して、
周囲の人に「だからあかんねん、どっちかに決めろ」みたいなことをよく言われていて。そう言われることにも、そのたびに動揺する自分自身にも、
だんだん腹が立つようになってきたんです。それでもう開き直って、「どっちも自己表現なんやし、どっちもやったらええやん!」と。
『LAPSE』は「僕は両方本気でやっていくぞ!」という抗いであり決意表明でした。
映画「LAPSE(ラプス)」
CM『日清カップヌードル謎肉丼『みんなで1.2.3篇』』や、バンホーテンココアのWEBムービー『ガラスの仮面』は監督・出演されていて、
両方の存在感・評価が大きくなっているように感じます。
正直、広告って以前はしんどかったんです。当然ですが比重として企業の宣伝が上に来るので、
提案するものが受け入れられなかったときなどは特に監督としてのアイデンティティを見つけられなくて。
「僕じゃなくてもいいんちゃうかな」と挫けていたし、拗ねていました。
でも、映画監督・俳優としていい意味で肩の力が抜けたあたりから、楽しくなってきたんです。いろいろ調べてみると、
広告業界で名が知れ渡っている映画監督が実際にいるんですよね。「世に届けるためのアウトプットであることは、映画も広告も一緒なんだな」と、
自分のなかで結びつきました。それまでは広告のギャップが苦しかったけど、結局広告を撮るのも「楽しめるか楽しめないか」は、自分のさじ加減かなと。
『ガラスの仮面』では、原作者の美内すずえ先生が企画を見て「いいじゃないですか」って大笑いしてくれたりして。あれは本当に嬉しくて、
自分の意識やスタンスを見直して、もっと楽しみたいなと思うようになりました。
人から受けた影響も大きいです。僕は小さい頃から物事全部を重く捉えがちなタイプなのですが、
舞台の仕事で出会ったモロ師岡さんが自然体な演技をされていて、一緒に仕事をするなかで「それでいいんだな」と思えました。
MVに出演していただいたことがあるカラテカの矢部さんが漫画家になって手塚治虫賞を獲ったのも衝撃でした。
矢部さんは40歳を目前にした挑戦で迷いもあったということで、20代の自分だって挑戦しよう、失敗してもいい!とだんだんと開き直ることができました。
後悔せず、評価も気にしない
自分自身が最高に満足できる作品を
キャスティングについてお聞かせください。監督としてキャストを選ぶとき、アベラさんの好きなタイプとか、
決め手となるポイントはありますか?
ずっとおもろい人が好きでした。以前は僕自身が「もっと出してください!」という演出をしていたので、感情吐露の仕方が派手な人、
感情を出し切れる人を基準に選んでいました。また、細かくプランを練って舞台的な芝居をする人も、「やる気がある!求めていた人だ!」と感じていました。
でも今は、よりリアリズムの中でおもしろいことをうまく見せてくれる人が好きです。何かをやろうとするわけじゃなくて、
ちょっとだけ変人になってくれる人というか。
キャストの選定基準や芝居の好みが変わるきっかけがあれば教えてください。
あるCM撮影でムロツヨシさんのお芝居を生で見たのですが、目の前で見ると、自然というか少し物足りなく感じるくらいだったんですよ。
だけど、いざ映像で観てみたら、めちゃくちゃおもしろい。ちょうどいい。その割合を間近で見たときにワビ・サビみたいなものを痛感して、
緩急のあるリアルな芝居を好むようになりました。それを役者として実践しようとしたら、僕この間オーディション落ちましたけどね(笑)。
不自然な芝居になって、自己反省です。監督として、役者として、それぞれの立場で日々勉強です。
最後に、これからやりたい仕事や将来の夢をお聞かせください。
僕のWikipediaのプロフィールには「映画監督」と書いてあるのですが、その肩書きに則した評価を受けられるようになりたいです。
大学で作った『死にたすぎるハダカ』以降海外の映画祭に行けていないので、オリジナルの長編映画を撮って、
またあの最高な空間に行きたいという強い思いがあります。
あとは、仮に100人から「違う」と言われても、「自分的には考え尽くしているから、誰に何を言われてもブレない、折れない」という域まで、
自分の想いと作品を強固にしていくことです。今年『明日も晴れてもらわな困るわな』など3本の映画を公開しましたが、自分ではやり切ったと思っていたのに、
まだ何かできたんじゃないかという思いが胸の奥に小さな後悔となっていて。「満足しないからこそさらにいいものを作り続ける」
的なことが美談というか美徳とされる一面もあるのかもしれないけど、自分で「あ~、最高!」と思えるような、自信に溢れた映画監督であり役者になりたい、
いえ、なります!!!!・・・よし!これで決まりましたか!?
監督のアツイ想いを伺うことができた2時間のロングインタビューでした!ありがとうございました。
監督として、俳優として、これからも期待しています。
アベラヒデノブ
Hidenobu Abera
1989年ニューヨーク州生まれ、大阪育ち。
2012年大学在学中に、監督・脚本・主演した
『死にたすぎるハダカ』がモントリオール映画祭で入賞
YouTubeに公開すると380万回再生され話題に。
テレビドラマ「背徳の夜食」では監督・脚本・編集・題字を担当。
監督だけではなく、映画「青の帰り道」では脚本家として、俳優としても活躍中。
CM監督作品
週刊少年チャンピオン
片岡物産/バンホーテン×ガラスの仮面 WEB限定ムービー
ロッテEATMINT WEB動画「ガムでもないタブレットでもない」
Vanilla Air Experience~魔法の椅子~
日清カップヌードル謎肉丼「みんなで1.2.3篇」など