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Director

会話劇、舞台、ドラマ風・・・
強みの発展が自分のカラーに

長部洋平
Yohei Osabe

伝えたい気持ちを媒介するツールを求めて


幼い頃の長部さんはどんなお子さんでしたか?
「物静かな子」でした(笑)。
人気者になりたいけど、どうしていいか分からなくて、クラスで目立ってる子を「彼が面白いといわれているのはなぜなんだろう」などと分析していたことを覚えています。
僕自身は言葉がすぐには口から出ないタイプで、でも頭の中には何パターンも浮かんでいたんです。ただ、どれをセレクトしたらいいか考えているうちに「あ、変な間になってる」って焦ったりして。客観的にはちょっと変に見えたかもしれません。

将来についてはどんな考えを持っていましたか?
高校の頃はTVドラマのキラキラした感じに憧れて、物語を書いていました。専門学校ではminiDVカメラでコントを撮ったり、コマ撮りや逆回転撮影などをして遊んでいました
その背景にあるのは、頭の中にある「何か」を会話でうまく伝えられず、その一方で伝えたい欲求はしっかりと持っていた小さい頃からのフラストレーションのような気がしています。それを、作品を通した表現で発散していたのかもしれないな、と。

映像ディレクターである今につながっている部分ですね。
そうかもしれないです。将来は漠然とクリエイティブなことをしたいと思っていました。文学やビジュアルは、会話のような即時的なコミュニケーションではない。だからこそ自分のストーリーやビジュアルイメージをしたためて、じっくり考えたものを表現することができるので、僕に合っていたのかもしれません。


“月9みたいな”CM


最近のお仕事を伺わせてください。
結婚式場サイト「HIMARI(ヒマリ)」のWebムービー『結婚式場探しドラマ ひまりで決まり!』のクリエイティブ陣はとてもアイデアが豊富で、演出部分は、「長部さん流のドラマを作る感覚で自由にやってほしい」と言ってくれたので、本当に楽しく、やりたいことを全部やらせてもらいました。
挙式の希望日や予算から式場を探すというサイトで、登場するキャラクターの名前が「新常識 ひまり」「自己負担 学(じこふたん がく)」「ヒドリーヌ・唐選(ひどりーぬ・からえらぶ)」「上部 完(うぇぶ かん)」というユニークなもの。このキャラクターを深堀して各1分30秒ほど、全4話のムービーです。

ドラマ「ひまりで決まり!」
監督のこだわりポイントはどこですか?
月9っぽいところとムダな部分です!
クリエイティブと「これは月9風にしよう」と話し合いました。
最近は割と共感できるリアリティのあるドラマが支持される傾向にありますが、自分たちが見てきたトレンディ感のある月9は、恥ずかしいくらいキラキラしていましたよね。絶妙なタイミングで偶然出会っちゃうとか、何もないのに突然振り返るとか、あざといことをどんどんやっている。過去の月9を見漁る中で、その世界観っていいじゃん!という思いが湧いてきました。
ムダな部分に関しては、くだりを二回アクションするとか、必要ないナレーションを入れたりとか、細かいところでいろいろあるので見てください(笑)。
あと、遊び心というか、キャストさんありきの部分でやりたいと思ったのがエンディングの歌です。ひまり役の佐藤玲さんが歌が上手いと伺ったので、「Will you HIMARRY me?」という歌を作って、テーマソングとして本人に歌ってもらって。これも月9っぽいですよね。結果本篇と同じくらいエンディングに尺を使ってしまいましたが(笑)。「このキャストさんならこの方向でやれるな」とか、キャスト優先で考える面白さを実現できました。


90年代のあの感じ、逆に新鮮に映りますね。
そうなんですかね。今っぽく、かつちょいダサく表現することを意識しました。
その前にやらせてもらった中国電力のCMもクリエイティブと話し合い、キーワードは「アツい系ドラマ」ということになりましたし、その2本はドラマの流れがあって、本当に楽しかったです。

連続挑戦ドラマ「つづく」大崎クールジェン篇|中国電力CM
連続挑戦ドラマ「つづく」隠岐ハイブリッドプロジェクト篇|中国電力CM
“月9っぽさ”を切り取れる感覚って、監督の世代だからこそですし、それが長部監督の一つの色になっていきそうですね。
ドラマのリアリティのなさを否定する人もいるかもしれないけど、「全然いいじゃん、かわいいじゃん。だって作り話なんだから、面白ければいいじゃん」と、そこに抗うことなく身を任せたいと思いました。


舞台の演出を経てーー
キャストのポテンシャルとともに創り上げる姿勢


以前から会話劇やシチュエーションのあるCMはお得意だと感じていましたが、さらに磨きがかかってきていると感じました。
2019年2月に畔柳恵輔くんと山田彩華さんと一緒にハイチーズというオムニバスユニットを結成し、オムニバス舞台「千本桜記念」をやったことが大きいですね。
CMをやっていると、“生のリアクション”を感じられることがなかなかないこと、そして役者さんと密に演出の話をしてみたいと思ったこと、あとは純粋に脚本が書きたかったというのが舞台に挑戦した背景です。
僕の「スライドSHOW」は、ストーリーにこだわったドタバタ劇で、畔柳くんの「はなしにならない」は映画好きな彼の趣味性が出ているし、山田さんの「スピリチュアルツアー」は女性の感情部分を表現している。他の2人の演出のこだわりを見ることができたことも刺激になりましたし、反響もあって、やってよかったですね。
poster
舞台の演出で得たものや気づきはありますか?
役者さんの引き出しの多さ、読解力なども含めたポテンシャルを再確認できたことは自分としても収穫でした。
実際は歯の浮く台詞が台本に書いてあっても、見ている人には自然にみせる役者さんのすごさ。ウソっぽい台詞が、役者さんに言ってもらうとなぜか説得力が出る。説明的なことを言っていても面白くなる。台詞が役者さんにハマらなかったら変えて、そうしたらうまくいったりもする。これは当て書きができる舞台ならではですが、役者さんがリアリティを持たせてくれてることが多く、そういった部分で、演出をうまく昇華してくれる役者さんはいいなって最近は思いますね。

メディアの違いを飛び越える感覚を持つ、長部監督のような存在は今後必要になるのでしょうね。
CMは、時として狭い幅の中でしか演じられない部分があります。でもだからこそ役者さんのほんのちょっとした目の動きだったり、ちょっとした仕草でそのCMの空気感が変わります。そのちょっとした表現を、オーディションでも現場でも色々やっていきたいですよね。

企画次第という前提はあるものの、キャスティングで役者さんを決めるポイントはどこですか?
今まで生きてきた感覚から来るものと、好きなタイプ。ここを大切にすることが “自分らしい演出”になると思うんです。
例えば不良役をキャスティングする場合、僕が思う不良と他の人が思う不良って違うと思うので、クリエイティブの人やクライアントはどうなのかな?と思うことはあるけど、最終的には自分が思う不良というイメージを出すことで自分の色が出るんだろうなと思います。
自分で考えた設定をクリエイティブの人に共有して、OKだったらそのままGO。違うとなったらまた考える。純粋にそれでいいんじゃないかと思ってきました。

役者さんのポテンシャルを信じて、ご自身を信じる。とてもシンプルな姿勢で作品と向き合う長部監督がうかがえます。
以前は「自分がやらないと!まとめないと!」と思っていたこともあります。でも今は、周りを信じて、僕自身は自由に面白いことを考えてればいいんじゃないかなって思ってるんです。
舞台を経験したおかげでその界隈の知り合いが増え、生で見に行くことが多くなっていますが、その過程で「いい役者さんっていっぱいいるな、あの人と仕事したいな、この役ハマリそうだな」と頭の中でアーカイブになっています。この蓄積を糧にして、キャスティングの人と話し合いながら掘っていけたら楽しそうだなと思っています。

イー・スピリットとしてもぜひ協力していきたいです。本日はありがとうございました。

長部洋平
Yohei Osabe

1983年横浜生まれ。専門学校桑沢デザイン研究所、ビジュアルデザイン専攻卒業。
2006年にTHE DIRECTORS FARMに所属し、CMを中心に映像の企画演出を始める。 2012年よりTHE DIRECTORS GUILDでディレクターを務める。2018年独立。

<主な作品>
HIMARI 「ひまりで決まり!」シリーズ
中国電力「つづく」シリーズ
氣志團 「週末番長」MV
ジャパネットエアコン祭り 「占い師」「カンフー」「象使い」
コカ・コーラ「ウチのコークは世界一」シリーズ
ピッコマ 「恋するアプリ」「観察人間」