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Director

間違った流れにならないよう、
源流を大切にしたCM制作を

久間 敬一郎
Keiichiro Kyuma

“影響を受ける側”から“与える側”に


久間さんの子どもの頃のお話を伺わせてください
生まれたのは長崎のど田舎です。ヘビやカエルの死骸だらけの山道を帰らなきゃいけないような、そんなところで暮らしていました。毎週月水金にオザキさんというオジさんが、店のお菓子とかいろんな商品をワゴンにのっけてウチらの集落にやって来て。それをすごく楽しみにしていたのを覚えています。
中・高校時代は部活動をしていましたが、マンガを読んで、映画観て、ファミコンして…という時間も多かったです。その延長でいつ頃からか漠然と「映像を作って飯を食いたい」と思うようになってました。影響を受ける側から与える側になりたかったのかもしれません。

高校卒業後、進学を機に長崎から上京されています。大学時代、とくに印象に残っていることはありますか。
バイトで貯めたお金で半年間ユーラシア大陸をウロウロと旅してました。北京からモスクワ、その後コーカサス地方を経由して、東欧、西欧。バルト三国や内戦直後の旧ユーゴの国々も行きました。基本的に一人なので、その場その場の問題も自分で解決しなければいけないことが、今にして思えばいい経験になってるような気がします。
10代の頃の「映像表現の仕事をしたい」という漠然とした思いはずっと持ち続けていました。当時プレステのCMがすごく好きで、CMは面白いことができそうだぞと思って太陽企画に入社しました。

太陽企画では1年目から演出部に配属されています。当時の仕事のやりがいや成果を教えてください。
入社して3~4年頃って演出家として芽が出て脂がのってくる時期だと思うのですが、私の場合まったくそういうこともなく(笑)。毎日クサクサしていました。そんな状況を見かねた、会社を辞めて独立した元先輩が声をかけてくれ、BMGファンハウス「Kiss」というコンピレーションアルバムのCMを手がけました。この仕事で初めてちゃんと自分が面白いと思えるCMを作ることができた。遅まきながらも、やっと何かが始まった感じがしました。そのCMをいろんな人に評価してもらって、各方面から仕事をいただくようになりました。
KeiichiroKyuma

『リクナビプレミア』で多数の広告賞受賞
『ゼスプリ』は好感度・反響ともに◎


独立後は、『リクルート リクナビプレミア 山田悠子の就職活動』で多くの広告賞を受賞しています。
あの作品の演出に関しては、まず“まっとうな人をとりあげる”という構成を決めました。世の中にはまっとうに生きてる人がたくさんいて、私を含め大多数の人はそういうまっとうな人が好きだし、そういうまっとうな人が報われてほしいと思っています。だから主人公をまじめで一生懸命だけどコミカルでもあるキャラクターにしたり、ストーリーの流れをバカバカしいスタートからグッと感動できるラストという構成にしました。わずか4回だけのオンエアでしたから、まさかあんなに話題になるとは思ってもいませんでした。結果として賞までいただいたことはとても光栄でしたね。

2016年から関わっているという『ゼスプリ』では、2019年6月度のCM好感度ランキング(CM総合研究所調査)で2位にランクインしています。視聴者からも「子どもにもわかりやすい好CM」「なんとなくメジャーフルーツになりきれないキウイが、ほかのフルーツを巻き込みながら自分を売り込む姿をみてると応援したくなる」など絶賛の声があがっています。
実はこの仕事が初めてのコマ撮り作品でした。クリエイティブとしてはコマ撮り経験のないディレクターが関わる方が、なにか面白いものができるはずという企みがあったようです。コマ撮りのプロフェッショナルであるアニメーターの峰岸裕和さんが入ってくださっているのですが、15秒のCMを作るにあたって、2時間で10フレーム、1カット撮るには半日かかります。そのくらい地道な仕事です。
電通のアートディレクターが創ったキャラクターであるゼスプリブラザーズが予想以上にウケて、今ではアジアやヨーロッパでも放送されています。そのため企画も含めて各国の決済が必要になってしまって、いろいろ意見がある中でいかに面白くするか年々難易度が上がっています。2019年のCM時も紆余曲折あったりはしたものの、結果的に反響(※)も多く、ファンをさらに増やすことができたのではないでしょうか。
※CMを見たユーザーがアゲリシャスダンスを投稿するとバイト代(=キウイ一か月分)を支払うという消費者参加型のキャンペーンを展開

あの爽快な歌と、メジャーな果物のキャラクターに対して「一緒にやろうよ」「バイト代払うよ」とダンスに誘っているキウイに愛着を感じますね。
初期のキャラクター設定の段階で彼らの性格を、ほのぼのとしたかわいいだけのものではなく、より人間的なものにした点がまず良かったと思います。それがある程度浸透したトコロで今回はほかの部分(歌・ダンス)が視聴者にとってより好意的に受けとってもらえたのかと。商品の売上も伸びつつ、好感度もある程度数字をクリアしている点は、任された立場の人間としてはいい仕事ができたかなとホッとしています。
ゼスプリ キウイ TVCM 2019 #01 「アゲリシャスダンス」篇
独立後、駆け出しの頃や会社員時代と比べて変わったことなどはありますか。
基本は変わらないと思います。制作の流れを川に例えると、下流で何かやっても時すでに遅しということが多く、やっぱり源流にこだわらないといけないと思います。僕が加わるよりも前に代理店とクライアントで握り合ってることもありますが、演出プランを提案するタイミングが川の流れを変えることができる最後のチャンスだと思うので、コンテ上のやりとりに納得いかない場合はそこで意見を言います。クライアントに「今まで話してたのとちょっと違うんだけど聞いてもらえますか?」と説明すると聞いてくれるケースもあるので、最終的なゴールのイメージを極力共有して、軌道修正する場合はするとして、目指すべき方向に、もっと強く、もっと高く、明確にということは心がけています。

変化でいうと、ご結婚されて、お子さんも成長されて。ご家族がお仕事に変化をもたらしていることはありますか。
あるとしたら、子役のキャストの扱いができるようになったかなということくらいでしょうか(笑)。ただ、昔は家に帰っても仕事上の負の感情を引きずっていたままだったりしましたが、子どもがいるとそれができないというか、例えば夕食時にみんなでご飯を食べてると、子どもが「今日嬉しかったこと」をお題に話をしたりさせられたりして、いつの間にかクサクサした負の感情を忘れさせてくれる作用は間違いなくあります。

奥様(博報堂コピーライター久間恵子さん)とお仕事の話もされますか?
します。守秘義務があるので、この程度のことは聞いてもいいなという範囲の中でですけど。彼女の場合はコピーが本業であり、僕の場合はキャストや音楽などのアウトプットに関する事が主なので、直接は役に立たないことの方が多いかもしれませんが。でも、口にしたアイデアや切り口が参考になるってことは実際あります。あとはテレビCMを見て意見を言い合ったりすることもありますね。このCMはいいねとか、これは失敗しているねとか。

KeiichiroKyuma

CMの世界観に近づけることが前提。
予想を裏切られる遊び心もOK


キャストへのこだわりや基準を教えてください。
コマーシャルっていうことだけでいえば、やっぱり品とか愛嬌とかは大事かなと。品がない人は観てる人もクライアントも作る人間も好感を持てないですから。人は美しいもの、美しい人、愛嬌のある人に好感を持ちますが、だからといって必ずしも外見が整った人である必要はないけれど、喋り方や音感などに関しては気にしながら選びますね。
僕の仕事のスタートは、CMの基本設定ができ上がっている状態がほとんどです。だからそのお話の精度を上げるために自分なりの世界観を作り上げ、脚本を作り、配役を決めるのが主な仕事ですが、その時に、「芝居にみえないナチュラルな演技」を求めることもあれば、逆に「芝居っぽく」を求めることもある。そんなケースバイケースではあるものの、その決まった世界観を表現する際に齟齬がない演技をしてくれるキャストを見極めるためにオーディションを行っています。
とはいえ答えは一つではないので、その世界観にハマるかどうかだけでなくいい意味で予想を裏切られたパターンも選択肢に入れるようにしています。

オーディションで10人呼ぶとしたら「2~3人はちょっと変化球を入れたいな」「この企画ではやや違うかもしれないけど、違う役や別の作品ならストライクになるんじゃないかな?」という人を呼ぶこともあるんですが、どうですか?
コマーシャルってスパンが短いので、遊び心を試す余裕というかスケジュールが制作香盤的になかったりすることが多いのが事実です。とはいえ、持っている個性・魅力が何か気になるキャストとの出会いは嬉しいですよ。キャストでも作品でも、要は、王道・定番だけやっていればいいのか?ということで、個人が仕事する上での遊びの部分に対して、面白いと思ってくれる人も多いと思うんですよね。企画者やクライアントの迷惑にならない範囲だったら、何かしら入れることで面白くなるのはプラスだと思いますよ。
僕は大体すべてのスタッフと関わるし、オーダーをします。各々が「監督が考えてきたのはこうだけど、自分の中でこういうのもありだと思う!」みたいなことは、いろんな立場であると思うので、そういう時に相談をされ提案を受けたりとかっていうのは多々あるし、僕は聞くようにはしています。とはいえ採用するかどうかは別の話ですが。

CMは、クリエイティブだけではなくクライアント理解も必要で特殊な仕事だと感じるので、インテリジェントだからこそできるお仕事です!
素敵なお話をいただき、ありがとうございました!

 
久間敬一郎
Keiichiro Kyuma

1974年生まれ
映像ディレクター

1998年 早稲田大学卒業
同年 太陽企画株式会社入社
2006年 太陽企画株式会社退社後、フリーに

以下受賞歴
・ACCベスト演出賞(2009年)
・ACCゴールド/ブロンズ
・アドフェストゴールド
・広告電通賞
・ギャラクシー賞
・CLIO賞   他