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Director

「監督×カメラマン」こそ
最もアドレナリンが出る
自分的にベストなスタンス

原廣利
Hiroto Hara

プロ野球選手を目指し、挫折。
父と同じ道に進む


子どもの頃の思い出や夢中だったものは何ですか?
小学校で野球部に入ってからは、ほぼ野球漬けの日々でした。中学でシニアリーグに入り、高校も甲子園に何度か出場している強豪校に進学しました。そこではなかなかレギュラーにはなれず、ベンチ入りが精いっぱいでした。声が大きいのでサードコーチャーの役割を与えられましたね(笑)。小さい頃からプロ野球選手になりたいというのが夢だったのですが、このまま続けても厳しいだろうなと、進路をどうするか?やりたい事に悩みました。実は父が映画監督で、過去には『夜逃げ屋本舗』や『あぶない刑事』などの映画やドラマを手掛けています。これまでは親父と同じ道を歩もうと思ったことはなかったのですが、母に「高校の系列だし、日藝の映画学科を受けてみたら?」と言われて、やってみようかなーという感じでした。

お父様の影響で映画に触れることは多かったのでしょうか。
小さい頃に親父と一緒に新宿のコマ劇場で見たりもしていたのですが、野球の方に意識があったこともあり、のめり込んで見ていたわけではなくて。実際日本大学芸術学部に入学したら同級生も先輩も国内外の映画に詳しい人ばかり。「スタンリー・キューブリックも見たことないの!?」みたいな…。先輩に好きな作品を聞かれて、ドラマ化もした邦画の王道作品を答えたら笑われました。でもその時の、大衆向けでもいいものはいいんだという感覚は今もあって、多くの人がワクワクドキドキするものを作っていけたらいいなと思うきっかけになったかもしれません。

卒業後は広告制作会社に就職されています。
当時はリーマンショックの影響で就職氷河期。広告代理店やプロダクションなど手あたり次第に50〜60社は受けたのですが、なかなかうまく行きませんでした。我慢強く待って、好きなCMを多く手掛けている(株)ライトパブリシティのプロダクションマネージャー(PM)の募集があり、入社して勉強させてもらいました。ライトには1年半ほどお世話になりましたね。

日藝時代の仲間に刺激を受け
BABEL LABELへ


BABEL LABELへ入社したきっかけは?
当時はまだバベルが会社になる前だったのですが、弊社の藤井道人監督の『埃』という映画を見て、あまりに衝撃を受けて、俺は何がしたかったんだっけ!?監督だろ!と思い直しました。
藤井さんは日芸時代の先輩で、藤井さんが監督、僕が助監督をして映画を撮ったり、卒業後も交流があったので一緒にやろうということになりました。
とはいえ、当時の僕は経験も作品もないですから、三ヶ月に一回のワークショップで映画をどんどん撮って、リールを作って「こんな映像撮れます」と営業するところからのスタートでした。
企業のPVからはじめて、だんだんCMなどにも声をかけてもらえるようになって。駆け出しのころは監督兼編集を担当することが多かったです。

その後、ギャラクシー賞月間賞を受賞した連続ドラマ『日本ボロ宿紀行』など、ドラマで続けざまに高い評価を得ています。
『日本ボロ宿紀行』では、全話でカメラマンを務め、監督兼撮影回もこなすという、これまでにない関わり方をしました。もともと機材に興味があったので、広告やPVなど短い作品では自分でカメラを回していたんです。今では広告系の仕事の9割ほどが監督兼カメラマンとしてやっています。
とはいえドラマなど長モノを自分で撮影するのは初めてで、かつ12話分とボリュームも多い。撮影できる日も限られていたので、三脚は置かずMovi pro(ジンバル機材)で全編撮影しました。約二か月半、日々筋トレ状態。結果、5kg痩せました(笑)。

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2018年には、Y!mobileのリアルライフシンクロ型ドラマ『恋のはじまりは放課後のチャイムから』をドラマの設定と同じ放課後の時間に配信し、SNSや現実世界とシンクロしたストーリーで世界的に評価されています。
BABEL LABELの藤井、僕、志真3人が監督として撮り、僕はほぼ全話の編集もしています。実は全監督が恋愛ドラマを撮った経験がほぼゼロだったので、だからこそオリジナルの演出だったり、当然ですが次話を見たくなるような工夫をしたり。僕が担当した2週目は、爽やかな雰囲気だった1話から一変させ、友情や関係性が壊れていく様を描くためダークな演出にしました。
試みとしてのユニークさも評価され、英題『720 HOURS OF YOUTH』として、世界で最も古い広告デザインの国際賞「2019 ニューヨークADC賞」でブロンズ受賞、世界三大広告賞「クリオ賞(2018 CLIO AWARDS)」でブランデッド・エンターテイメント部門 シルバー賞受賞など、世界的な評価もいただきました。

Koinohajimari

CMの9割は
監督・カメラマンを兼務


CMでは監督兼撮影を担当されている作品が多いですね。兼務できることは、原監督にとってのセールスポイントだと拝見しています。
両方兼ねることの一番のメリットは、キャストさんとの距離感が近くなることですかね。コミュニケーションが取れて直接的に伝達でき、演出にいい影響が出ているように感じています。あとは撮影も兼務する方が体も動かしますし、アドレナリンが出てきます。その瞬間で切り取りたいものに瞬時に動けるものいい所なのかなと思います。

原さんにお願いするとカメラもやってくれるという心強さがありますよね。
ありがとうございます。実際に制作会社の人から喜ばれることは多いですし、リールを見せるとスムーズに仕事につながるケースがここ最近で多くなりました。
先日の海外ロケでは、9日間でサンフランシスコ、ウィーン、香港の3カ国を回るというスケジュールでした。フットワークを軽くするため最少人数で行く必要があったので、「自分でカメラ回しますよ」と言ってやってきました。
負荷をかけたほうがやる気が出るのは、やっぱり根が体育会系だからかですかね?(笑)。撮影部は「行くぞー!」という勢いがあるので、気持ちが盛り上がりますし、それは監督だけをやるときにはないノリで、演出の際も明るくなって、キャストの笑顔が引き出せるように感じます。今後も体が動くうちは、出来る限り両方をやっていこうと思っています。

体育会系というと、力強さやタフさを連想しますが、原監督の手掛ける広告は映像美があり、ビューティ系のお仕事も多い印象です。
これもやっぱり自分でカメラを回すようになってから増えているジャンルのように感じていて、特に深田恭子さんに出演していただいた外為どっとコム WEB CM『ワタシの生きる。』以降オファーを頂くことが多い気がします。
ハワイのオアフ島で撮ったのですが、当初想定していた水辺だけの撮影では弱い印象で、僕がカメラを回しながら一緒に歩いてもらったり、カメラ目線で語り掛けてもらったりしました。そのうちに、どんどん深田さんのリラックスした表情やしぐさが出てきました。
今でこそ緩和されていると感じますが、CMの現場ではタレントさんと一定の距離を置かなければいけないみたいな雰囲気がありますよね。でも、コミュニケーションをほんの少しでも取れればよりいいものが撮れると思っているので、「我々のコンセプトはこうで、こういう事がしたい。あなたはどう考えますか?」と、思いを交換しながら進めたいと思っています。特にCMは関わる時間こそ短いですが、役者さんといかにその短時間で関係性を築いて、人間性を撮れるかというのは毎回考えている部分です。

Watashinoikiru
伊右衛門 × Number サントリー『拝啓、平成の怪物へ。』は、野球に打ち込んできた原監督にとって、まさにドンピシャのお仕事だったのではないかと思います。
そうですね、僕自身が最も好きな野球選手が松坂大輔投手です。西武ドーム初登板の日に家から近かったので自転車で駆け付けましたし、中・高校はフォームを真似して投げていました。最近では東京ドームでの登板を観戦しに行ったりと、ずっと応援してきた、僕にとってのスーパースターです。
だからこそ話があったときに最初は尻込みしていたのですが、いざ打ち合わせになると、「こういったステージを作るとか、または球場でやってもいいんじゃないか」とか、「過去にこの試合があって、こんな選手と対戦したのでその時のことを聞けたら…」と、結構マニアックな話になってみんな引くという事がありました(笑)。
当日はリハを行わない一発撮りになり、事前にカメラのアングルなどを綿密に探って、僕が誘導しながら一球一球にコメントをもらいました。一度も切らずに長回しして、時折質問を投げかけて、またそのときの松坂さんのコメントや表情がとてもよくて…。
これを短い時間内に撮れたことは、松坂さんはもちろん、一緒に作り上げてくれたスタッフに感謝しかありません。
CDの方も「まさかこんな風になるとは思わなかったです」と喜びの声をかけてくれ、本当にやってよかったと思えました。

Watashinoikiru

キャストとディスカッションできることが理想


キャスティングへのこだわりは?
作品によってという前提がありますが、オーディションで会ったときの雰囲気で「この作品に合う」などは瞬間的に分かるとは思います。だから確認作業でお芝居を見て、コミュニケーションを取ります。基本的にはそれで大丈夫なことが多いですね。
一方で、その人がいたからもういいや、とすぐ終わらせることはしないです。もしかしたら他の作品で使いたいと思う人がいるんじゃないかとも考えているので、来てくれた方とは基本的に会話して覚えておきます。それは自分の中で持っている信念でもあります。

キャストさんに求めるものはありますか?
現場においては、まずは役者さんが思うように演じてほしい、自由に動いてほしいと思っているので、それを体現してくれる方がいいですね。その上で、どうしたらもっとよくなるかということをディスカッションできたり、「こういう風にやってみましょうか」と提案してくれる方ならなお好感ですね。ドラマでは結構そういったこともありますが、広告ではなかなか少ないので。

今後、どんな仕事をしていきたいですか?
やっぱり、2020年東京オリンピックに関わる仕事はやってみたいです! あとは、映画を撮ること。アクションコメディやアメリカンコメディが好きなので、格好よくて、映像美もあって、笑って泣けて…みたいなものをやりたいですし、いつかは親父が監督、自分はカメラマンで作品を作ってみたいです。

 
原廣利
Hiroto Hara

■プロフィール
東京都出身。
2010年、日本大学藝術学部映画学科監督コース卒業。
2011年広告制作会社ライトパブリシティを退社後、BABEL LABELの映像作家として活動を開始。
2017年Netflix/テレビ東京 ドラマ「100万円の女たち」で全話編集を担当。監督担当は2話分。
2018年テレビ東京ドラマ「日本ボロ宿紀行」で全話撮影監督を担当。監督担当は2話分。
広告作品では主にドラマ系やドキュメンタリー系を監督兼撮影のスタイルで担当することが多い。

2012年「Faint Light」がダマー映画祭2012inヒロシマ グランプリ受賞
2014年「Glint Road」がGR Short Movie Award プロモーション映像作品の最高賞のGR賞を受賞。
2015年「歩きスマホ参勤交代」アドフェスト2016「NEW DIRECTOR LOTUS」部門でブロンズ。
2015年「なんの意味もない。」ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2016ジャパン部門ノミネート。CINEMA ON THE BAYOU FILM FESTIVAL(アメリカ)/エジンバラ国際短編映画祭/Kinofest(ルーマニア)/New Renaissance Film Festival-Best Comedy部門ノミネート (オランダ)/Japan Touring Programme(イギリス)/short sweet film fest(アメリカ)/International Motion Festival(キプロス)/Fastnet Film Festival(アイルランド)世界の映画祭で上映される。

Zetsumeshi
原廣利監督が演出に参加しているテレビ東京のドラマ『絶メシロード』
来年1月24日に放送開始されます。
是非ご視聴下さい。