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Director

国内外の広告賞受賞を弾みに、さらなる高みを。
掛け合わせる編集で、よりよい仕立てを追求する

長谷川 隆一
Ryuichi Hasegawa

Vシネマやホラー映画にのめり込んだ大学時代


映像に興味を持ったのはいつ頃ですか?
小さい頃はごく普通に過ごしていたと思います。海外のドラマや映画が好きで、家族に連れられて映画館に行ったり、テレビも当時は地上波でたくさん映画を放送していたのでよく観ていましたね。特にロボコップはすごく好きでした。
つくる側にいきたいと思ったのは、中学2年生の時に(スターウォーズの) 帝国の逆襲《特別編》を映画館で見たときです。それはもう感動して。そのときに「CGアーティストになろう!」と決意しました。

CGがきっかけなんですね。
とはいえ、その後特にCGの勉強を始めるわけでもなくて、大学進学するときに思い出してCGも学べる学校に入学しました。大学では1~2年生は映像や音楽、CG、インスタレーションなど色々やって方向性を決めて、3~4年生から専門性を高めていくようなカリキュラムでした。そこでCGの授業を受けたんですがものすごく苦戦しまして…。画面はたくさんあるし、思い通りのカタチにならないし、レンダリングに時間はかかるしで、すぐ心が折れました。あんなに憧れていたのに。
逆に映像の授業ではミニDVのカメラを使って一本作品を作るとかで、その方が楽しかったんです。ちょうど僕が大学生くらいの時にノンリニア編集が一般的になり、ひとりで撮って編集して完パケまでいけることにやりがいを感じて、監督になりたいと思いました。


当時はどんな作品を作っていましたか?
ホラー映画やVシネマをよく見るようになって、スプラッターのゴア表現に興味をもったり、恐怖に立ち向かう主人公像に感情移入したり、そういう思い切った世界観が大好きになりました。在学中、監督やガンエフェクトとして活動されている遊佐和寿さんが、TA(ティーチングアシスタント)として映像の授業を受け持っていて、すごく目を掛けてもらっていたので、ガンエフェクト助手として撮影現場によく行かせてもらいました。モデルガン用の銃弾を延々と作ったり、弾着用の血のりを用意したり、エキストラ役で撃たれて死んだりと、かなり偏っていますがそういった環境で映像を勉強していました。卒業制作で作ったショートフィルムもドンパチする系です。どうやったら監督になれるかもよく分からず、就活も全くしていませんでした。

監督って、映像美やストーリー重視の映像を作りたいという方が多いように感じるのですが、長谷川監督、異色ですね…!
卒業後もどこにも所属せず、遊佐さんの現場に行ったり、編集を手伝ったり、引越のアルバイトをしたり、あと知人の紹介で広告の撮影現場で制作アシスタントのアルバイトもしました。そこでパズルというもともと太陽企画のプロデューサーだった岡田行正さんが立ち上げたプロダクションと出会ったんです。Macの知識が少しだけあったのと、ある程度Final Cut Proで編集できたのが役に立ったと思っていて、そういう技術担当の制作として5~6年在籍させて頂きました。
その後、太陽企画からTOKYOができる時に参加することになり、当初はエディターとして様々なディレクターの編集を担当させてもらいました。そこからディレクションというものを少しずつ学び、ディレクターになれたのは30歳を過ぎた頃だったので、遅いですよね。年齢的には中堅なのに、キャリアとしてはまだまだペーペーなんです(笑)。


Ryuichi Hasegawa

よりよい仕立てを作り上げる努力


資生堂「MY CRAYON PROJECT(マイクレヨンプロジェクト)」では、世界3大広告賞の1つ「CLIO AWARDS 2019」をはじめ、国内外の賞を立て続けに取っています。改めておめでとうございます!
素晴らしい企画に関わらせていただいたことが全てだと思っています(笑)。とはいえ、プロモーションフィルムの仕立てが良くなければ、せっかくの企画も台無しになってしまうので、いかにこの企画の意義を映像で伝えられるか、より良いものにできるかを意識しました。それも受賞の一助となっていれば嬉しいです。

制作時のエピソードなど、詳しく教えてください。
資生堂は、学校の授業を通して子ども一人ひとりの肌の色を精密に計測し、その子の「肌色」を忠実に再現したクレヨンを制作することで個性や自分らしさを認め合い、大切にすることを学んでいく「マイクレヨンプロジェクト」を行っています。
この映像を作りたいと最初にお話を頂いたときは、ちょっと戸惑ったんです。というのも、やはりセンシティブな内容ですし、率直にいうと想定外の反響がある可能性も否めず、正しく描けるか不安でした。でも正しい企画だと思ったし、僕自身「肌色」という言葉に何の疑問も持たずに生きてきたので、そういった気づきから始まるものを映像で真摯に伝えていくことだけを考えて演出しました。肌の計測から、それを元にしたクレヨン制作、それを持ってワークショップを行い、その後横浜の小学校で実際に授業として使われたりと、制作には半年ほど関わっていたと思います。大人として見ると、今どきの子どもたちはクレヨンってどう思うかな?と、ちょっと勘ぐったりもしたんですけど、クレヨンが渡されるとみんな「肌色」の多様さに感心していて、隣の子と見比べたり真剣に絵を描いたりと、撮影しているこちらも感銘を受けましたね。


My Crayon Project|資生堂


Hondaをはじめ、モビリティのお仕事やスポーツ系も多く手掛けている印象です。
Honda DCTという二輪のトランスミッション技術を伝えるフィルムに数年前から携わらせてもらっていて、そのご縁でニュープロダクトであるADV150のCMのお話を頂きました。テーマが「MANLY」つまり男らしさだったので、ダイナミックなカメラワークを意識して演出しました。撮影地はブタペストで、もちろん安全面にものすごく配慮しながら何回も打ち合わせして撮影に臨んでいるのですが、カメラカーで突っ込みながら横からバイクが出てきてクロスしながら捉え続けるスタントショットを撮影しているときはすごいスリルあって。もうテンション上がっちゃって、やっぱり自分の嗜好はこうなんだなあと再認識しました(笑)。


Honda – ADV150


chelmico「Summer day」ではMVにも挑戦されています。
このMVでは、以前から興味のあったドローンライティングに挑戦しました。夜の闇の中にスポットライトが動くことで幻想的なロケーションが生まれないかなと思って「未知との遭遇」をイメージして企画しました。ドローンライティングを視覚的にわかりやすく印象的にするには、フォグを焚いて光の筋がわかるようにします。でも、よくよく考えれば当たり前なんですけど、フォグ焚いてドローンを飛ばすとドローンの風圧でフォグがサーと散ってしまうんですね(笑)だから絶えずフォグ撒いてもらって。真夏のロケで、昼も夜もずっと大変な撮影でしたけど全スタッフがとても頑張ってくれて、すごい楽しかったです。


chelmico – Summer day


編集のスタイルは「A」+「B」。
無限の可能性を追求する


作品を作る上でのこだわりを教えてください。
自分で演出から編集まで手掛けることが多いです。エディター出身ということもあって、自分でやらないと気がすまないというのもありますね。
理想的なスタイルは、信頼しているエディターが編集したものと自分が編集したものを掛け合わせて最善のものを作っていくというシステムです。編集の可能性って無限で、答えはたくさんある。自分で編集すれば自分のイメージ通りに近づくと思っていますが、もっと良くなる可能性を探りたいという。それに「このショット撮るの大変だったからカットしたくないな」とか、撮影素材に対して愛が芽生えて、固執というか視界が狭くなる場合もあって、そういったときに他の可能性や客観的な視点で繋がれたものが見れるのはとても参考になると思っています。元々これは弊社の谷川英司の受け売りで、僕がエディターのとき、既に谷川がそういうスタイルでした。そこで一緒に編集させてもらって、お互いのパターンを見せ合いながら繋いで完成させることに対して学びがすごくあったんです。だからディレクターになった今も、自分としてはこのやり方がベストだと思っています。

A案+B案で作っていくのがスタンダードですか?
見比べた上で「BはやめてAで行きましょう」となることもありますし、「冒頭はAの画を使って、エンディングはBを使おう」ということもあります。何よりプラスアルファしながら高められる感がすごくいいですね。ディレクターでもありますが、これからもこういうスタイルの編集にこだわっていきたいと思います。

フィルムとして評価される作品に挑戦したい


キャストに関して求めるもの、見るポイントなどはありますか?
被写体としての好みでいうと、彫りが深い方やシワが刻まれていたりする人が好きです。陰影も出ますし、映像の中のフックになるので。だから年配の方は絵面として純粋に好きです。 オーディションの際は「こんな感じの方もアリだと思います」と、どんどん提案してくれるほうが嬉しいなと感じますね。編集の話と同じで、僕が思っていたことだけでなく、違う可能性も提示してくれる事が望みだったりします。「イケメン」と一言でいっても、イケメンも様々ですし「こういう方もイケてないですか」という提案が来るとすごい嬉しい。
その上で、チェックするのは第一に“動き”です。訓練された人の“動き”っていうのはやっぱり伝わるので。ただ歩いて下さい、走って下さいというだけでも結構変わりませんか?見た目はスポーツマン風なのに動いてもらうと「ああ…」みたいなことって、これまでも何度かあったので。だから表情の機微とかももちろんなんですけど、割と全体で人を捉えるようにしています。写真だけと言うのは怖いですね。

最後に、今後やっていきたい仕事を教えてください。
いま個人的にやりたいのはパワーのある画を撮ることです。アクションものとか、何かを爆発させるとか、異次元の動きをするカメラワークとか。ストレートの球を思い切りブン投げるような、とにかくシンプルで普遍的で力強いものをやれたらいいなあと思っています。もちろん広告では難しい表現もあると思うんですけど、そういったフィルムクラフトがメインのものに意欲的に取り組んでいきたいです!

今後も長谷川監督の作る映像作品を楽しみにしています。ありがとうございました!

 
長谷川 隆一
Ryuichi Hasegawa

■プロフィール
1983年生まれ。
制作部を経て、エディターとしてTOKYOの作品を中心に活動を開始。
2014年よりディレクターとなりストイックな映像表現が高い評価を受ける。

――受賞歴――
2017年 Cannes Lions - Grand Prix
2019年 Clio Awards - GOLD
2019年 One Show - Bronze
ほか多数受賞

http://lab.tokyo.jp/creative/ryuichi-hasegawa/