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Director

強味であるCGも駆使しながら、
非現実的な実写表現を圧倒的な美しさで描いていく

安田 大地
Daichi Yasuda

絵、音楽…
好きな要素が融合されている映像に希望を持った


幼少期はどんなものに興味がありましたか?
「紙と鉛筆さえあれば幸せ」というタイプでした、絵は描くのも観るのも好きで、親がよく美術館に連れて行ってくれました。あとは9歳と6歳離れた二人の兄の影響で、自分より少し対象年齢の高い文化に触れていたと思います。音楽とか、漫画でいうと『AKIRA』とか。小1のときにテレビで『AKIRA』のアニメの予告編を見て、そのクオリティに衝撃を受けたことを覚えています。子供だましではない圧倒的な世界観、色の美しさ、動きのリアルさ、音楽などすべてが新鮮でした。そのときの衝撃は、必要とされている以上のクオリティを追い求める自分の原点となっています。

映像に興味を持ったスタートラインが『AKIRA』なんですね。
高校生くらいになるとbjörkのアートワークやMVなどで、CGを駆使したものが出てきて。Me company による『Homogenic』のCDジャケットデザインや、
クリス・カニンガムの『All Is Full Of Love』など、デザインや映像にCGが持ち込まれた流れを見てますます興味が高まりました。
音楽も、テクノに夢中になって自分で作ったりもしていました。極めつけだったのが、『KEN ISHII - EXTRA』のPV。(元STUDIO 4℃の)森本晃司監督が作っているのですが、テクノとアニメーションという組み合わせが画期的で、「こんなにアーティステックな映像が日本でも出来るんだ」と希望を持った作品です。
他にも押井守監督の『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』など、世界に誇れるような映像作品が作られてきていて、とても可能性を感じました。

その後の進路は?
グラフィックデザインの学校に進学して、より本格的にCGと映像を学ぶために、別の学校でも1年間学びました。
そして僕がこの方面を目指す直接のきっかけとなった森本監督が所属されているSTUDIO 4°Cの採用を受けました。作品集を持って行ったのですが、当時はまだCG部のスタッフが少なく、すでにプロジェクトが始まっている状況だったこともあり、その場で入社が決定するスピードでした。
『アニマトリックス』や『マインド・ゲーム』、にCGIとして参加したのち、
いくつかのフル3DCGのプロジェクトや、ゲームムービーなどをディレクションしました。8年ほど勤務しました。

DaichiYasuda

“アニメ”or“実写”ではなく
アートとしての映像を作りたい


独立したきっかけはありますか?
「アニメーション」という枠に囚われずに、CGや実写を駆使して、もっと自由に自分のやりたい表現を具現化したいと考えるようになっていました。
もちろん独立したからといってすぐその想いが実現するわけはなく、
世間的には完全に、“アニメ”もしくは“実写”と業界が分かれているので、自分のやろうとしているスタンスを理解してもらうことや、“アニメーションの人”というイメージを払拭するまでが大変でした。

最初に手ごたえがあった仕事は?
独立して1年後、アディダス×サッカー日本代表のプロモーションでアニメーションを作る企画でプレゼンの機会を得ました。自分ならいいものが作れるという自信もありましたし、実際に通って作ったのが『革命へ導く羽VOL.1&2』です。日本のアニメ業界はリミテッドアニメーションが主流ですが、この作品では要所要所にフルアニメーションを入れ、CGとMIXしながらハイパフォーマンスな映像を作ることができ、実際に評価もされてスパイクス アジア広告祭2010クラフト部門でブロンズを頂きました。

実写では安室奈美恵さんの、「namie amuro LIVE STYLE 2011」のオープニング映像です。チェスをモチーフにした甲冑を身に着けた安室さんとダンサーたちが登場するという内容で、製作期間もタイトでしたが、自分でデザインからモデリング、コンポジットまで手掛けたことでやりきることができた映像でした。この作品があったことでスペクタクルな作品の話が来るようになったり、“実写も任せていい人”という認識を持って頂いた感覚があります。
ここから仕事が広がっていきました。


2014年の『THE NAIL /LEONARD WONG』は、グッゲンハイム美術館が主催するエキシビションにおいて、「世界のファッションフィルム10 本」に選出されています。
これは仕事ではなく自主制作に近いものになります。映像も音楽も全て自分の目指す世界観で表現したいと考えたときに、ファッションフィルムなら自由度が高く、理想の表現ができる思いました。ファッションデザイナーのLEONARD WONGと仕事で知り合ったことでそれが実現でき、僕自身よく一緒に仕事をする仲間とみんなで作品作りをしようと集まりました。
僕自身が影響を受けたアーティストの色も濃く出ています。例えば、中高生の頃にフランスの漫画家であるエンキ・ビラルと出会ったことで、歴史も文化もごちゃまぜになっているパラレルワールド的な世界観を作りたいとCGを追求しましたし、セルゲイ・パラジャーノフという当時ソ連の映像作家がカメラをフィックスで撮ることによって絵画のような1枚絵を作り上げる手法にもヒントを得ました。
世界のファッションフィルム10本に選出されてからは海外からも声がかかるようになり、反響も大きかったです。


Fashion Film「The Nail」


安室奈美恵さんの映像をはじめ、PVも多く手掛けられています。
PVも色々やりましたが、最近ではBiSHが印象的です。オファーを頂いたときは、自分に務まるのか?と不安もありましたが、BiSHの持つキャラクター性と僕が作る映像が組み合わさった時に面白い化学反応になったという手ごたえがあって、ここまで計算して僕にオファーされたんだなと納得しました。2018年はこのほかにもMAN WITH A MISSION『2045』、超特急『need you』、BABYMETAL『Distortion』などを作っていて、PVの多い1年でした。2019年はCMが多かったですね。


BiSH / NON TiE-UP[OFFICIAL VIDEO]


日清『SAMURAI NOODLES』ではインスタントラーメンの誕生にまつわる物語をフルアニメーションで描かれています。
久々のアニメーションでしたし、おっしゃる通りほぼフルアニメーションで、作画担当の方々は本当に大変だったと思います。動きのテーマの中に“回転”という要素があって、カメラが回り込むので、全てのフレームを描かなければいけないというアニメーションが最も不得意とする分野でもあるので。でもそこは3DCGも取り入れることで、新しい表現に導くことができたと思います。


NISSIN CM - SAMURAI NOODLES THE ORIGINATOR

ちなみに、実写かCGか、というギャップは何年くらいありましたか?
うーん…最近やっと無くなってきたかもしれません(笑)。
最近は『The Time as Organs』や、資生堂『LEGENDARY ENMEI ULTIMATE LUMINANCE SERUM』、ReFa『BEAUTECH』ブランドムービーなど、フルCG、アニメ、実写問わずアート色の強いものをオファーいただくことが多くなってきたと感じています。なかでも『The Time as Organs』は自分らしいと思える作品で、気に入っています。


The Time as Organs


SHISEIDO LEGENDARY ENMEI ULTIMATE LUMINANCE SERUM


ReFa BEAUTECH BRAND MOVIE


自分の中にある要素と
重なる部分を掘り下げていく


仕事を受ける際の基準やこだわりなどはありますか?
自分の中に重なる部分があるかどうかをよく考えます。CMだと広告代理店が企画を考えてくれることが多いですが、企画の中に自分が好きな部分、持っている部分で重なるところがないと良い仕事はできないと思うので、そこが見つけられれば掘り下げていきます。
(株)グッドスマイルカンパニー『FUTURE FACTORY』は未来の工場を描くという企画で、どんな風にロボットと人間の関係を描くかという点に着目しました。職人の手作業が支える製品作りにどうテクノロジーが介入してくるのかという問いに、ユーモアを交えて解答した映像です。この作品で僕が特にこだわったのは、ロボットのデザインやそこに存在するというリアルさ。
シド・ミードやアーロン・ベックのメカデザインのように、リアルな工業デザインの系譜を感じさせ、かつメカとしての魅力があるビジュアルになるように注力しました。
映像はストーリーだけが重要なのではなく、視覚的な驚きや喜びが無いと
映像である意味がないと思っているので、そういったディテールやアートワークを本気で造りこんで、手を抜かないという点がこだわりです。


FUTURE FACTORY - ロボット工場長、採用。|グッスマ15周年


キャスティングについてはどのようにお考えですか。
人は重要ですよね。アニメだったらキャラクターデザインに値するもので、それが作品のテイストを左右するといえます。
好きなタイプは立っているだけでオーラがある人。オーラのある人はフィルムに入るだけで画が引き締まります。演者がフィルムに入った時に、観た人がその世界を信じられるか、その世界に実際に住んでいるように見えるかというところを目指しています。
撮影時も最初に世界観のイメージボードを作って演者が想像できるようにすることは心がけています。それに合わせてライティングを作り、カメラのレンズ感も決めるなど徹底しています。
Right-onでは小栗旬さん、川口春奈さんとお仕事をしましたが、ハイクラスアウターのコンセプトとしてタウンユースもできることを伝えるため、アイスランドとNYを描き、その世界に小栗さんを溶け込ませるところはこだわった部分ですね。

最後に、今後の夢を教えてください。
想像した世界をもっとハイクオリティな形で作っていきたい、もっと理想に近づいていきたいという思いは常に持って取り組んでいます。
あと、ストーリーものはすぐにでも作りたいです。
テッド・チャンなどのSF小説が好きなので、『あなたの人生の物語』を映画化した『メッセージ』の出来があまりに素晴らしくて感動しながら嫉妬しました。
同時に哲学や概念など説明が難しいものを、感覚的に伝えられるという点で
映像にはまだまだやれることがあると思わせてくれる作品でした。
自分も日本を舞台に上質なSF映画を撮ってみたいです。

どの作品でも、安田監督の観てきた映像の蓄積と好きなテイストが色となって独特の世界観を構築しているのだと改めて感じました!
本日はありがとうございました。
 
安田 大地
Daichi Yasuda

1980年福島県生まれ。映像ディレクター、Art Director。
STUDIO4°Cを経て、2008年に独立。CM、MV、Station-ID、Web CM、ファッションフィルムなどを手掛ける。
2010年 adidas CMでSpikes Asia Advertising Festivalクラフト部門受賞。
2014年に監督した「THE NAIL /LEONARD WONG」がColectivo YOX(グッゲンハイム美術館が主催するエキシビション)で、世界のファッションフィルム10 本に選出され上映された。P.I.C.S. management所属。
Web site : http://daichiyasuda.com/ 
P.I.C.S site : https://www.pics.tokyo/people/daichi-yasuda/ 

<受賞歴>
2017年 NISSIN「SAMURAI NOODLES "THE ORIGINATOR”」がADFEST 2017 FILM CRAFT部門 シルバー受賞
2018年 CICLOPE Festival 2018 アニメーション部門 ゴールド受賞。