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Director

パペットアニメのミニチュア空間から
広大なライブ空間へリンクする
拡がるNEXT STAGE

喜田 夏記
Natsuki Kida

自宅にアトリエがある環境で育ち
NYで映画・映像制作に目覚める


どんな幼少期を過ごしていましたか?
父は建築家、母は画家という家庭で生まれ育ちました。学校から帰ると、いつも母は画室で絵を描いていたし、父は夜を徹して製図をしたりしていた。
そんな環境だったので、私自身も絵を描いたり何かを作ったりする事がとても身近で、いつしかアートを仕事にしたいなと考えるようになっていました。
一方で、学校から帰るやいなやランドセルを放り投げて外に飛び出していく様な子供でもありました。スポーツ好きで、学生時代はずっと運動部に所属し、真っ黒に日焼けしていましたね。
部活が終わったあとに美術予備校に通っていたのですが、黒光りするほど日焼けした女子高生が真っ白な石膏をデッサンする光景はかなり滑稽だったかもしれません(笑)。

映像を志すようになったきっかけはありましたか?
大学3年のときに、NY大への留学の機会に恵まれたことがターニングポイントでした。それまでも映画を観るのは純粋に好きで、特に大学時代は今よりも時間が潤沢にあったので、かなりの本数を観ていました。
留学先のNYは絵になる風景が多く、クリエイターにとっても夢がある街。NY大の授業では16mmのArriflexを使って短編映画を制作しました。参加している学生はみんな映画監督としての将来を夢見て、初めてカメラを構えました!みたいな感じでしたね。
本格的な機材を使って実際に街中でロケを行うのですが、NYには私たちのような学生がたくさんいて、街の人々も撮影に協力的でした。
私が最も魅了されたのはブルックリン。当時はミレニアム前で川沿いには廃墟の様な工場地がまだ残っていて、その寂れた風景が本当に魅力的で。
現地のスタッフには「このエリアは危険だから行かない方がいい」と敬遠されるような場所だったんですが、それでも強行して撮影をしたり。

大学院を卒業後、フリーランスとして活躍されていますね。
学部の卒業制作でコマ撮りアニメーションの映像作品を作り、大学院時代にそれを持ってデザイン会社や広告代理店にいる大学の先輩方を訪ねて作品を見ていただく機会を作っていました。運よく徐々にお仕事を頂くことができるようになり、必死で制作し続けて、気づいたらフリーランスとして活動していた…という感じです。
一番最初の仕事はMTVのステーションIDで、その後もMVのお仕事は多かったですね。


MVから人気が爆発
広告、ライブ舞台を手掛ける


GLAYの『夏音』は、メンバーが登場しないという初の試みながら、切ないストーリーを幻想的な映像で描き、ファンの間でも話題になりました。
当時は音楽シーンの勢いもあったので、地上波でもMVが流れる機会が多く露出も多かったので「これを作っている作家は誰?」と注目していただくきっかけになったようで。この作品から多くのアーティストさんに関わらせていただくことになりましたし、広告映像の仕事も増えてきました。
Kida
GLAY『夏音』MV
MVに加えライブ映像も手掛けられていて、安室奈美恵さんのライブの映像監督を4年間担当されています。
安室さんのライブ映像ではそれまでずっと男性監督が続いていたので、ご本人の女性クリエイターと組みたいという意向から、私に声をかけて頂きました。
ライブ映像とDVDのジャケットデザインも担当させて頂いたのですが、結果的に私が今まで築いてきたテイストを安室さんが好んでくれたことは嬉しかったですね。
とは言え、ライブ制作はMVやCMのように締め切りに照準を合わせて準備万端で作り込んでいくというのとは少し違い、当日まで全体像はある程度想像で組み立てていき、そこにアーティストさんが入って初めてステージ全体が完成するものでもあります。当日蓋を開けてみないとわからないというリスキーな側面もあり、かなり緊張感はありますね。本番当日、アーティストさんがステージに立ち、照明さんをはじめ何人ものプロフェッショナルの方々がそれぞれの仕事を遂げた時に初めて作品として完成されるのがライブの醍醐味。今までのクリエイトとはまた違ったスケールの感動がありました。
Kida
namie amuro LIVE STYLE 2014 DVD&Blu-ray + CD jacket
L'Arc~en~Cielさんのライブでは舞台演出・舞台美術と総合的な演出をされています。
もともとhydeさんの別のバンド(VAMPS)のライブディレクションに関わっていたんです。hydeさんはダークファンタジーやアニメーションといった、私が今まで制作していた作品のスタイルを好んでくださって、そこからL'Arc~en~Cielでもお声がけいただきました。
MVの仕事はミュージシャンというアーティストが音楽という作品を投げてきて、映像ディレクターがそれを受け止め、楽曲から得たインスピレーションをもとにビジュアルを構築し、一つの作品を一緒にクリエイトするようなもの。アーティスト同士の感性が交差することで新たな何かが生まれる。多くを語らなくても目の前のビジュアルと音で分かり合うコラボレーションとも言えます。これは学生時代に作品作りをしていた感覚とすごく近いものがあり、だからこそ音楽の仕事はすごく面白かったですね。
Kida
VAMPS Halloween Party 2015-2016
Kida
L'Arc~en~Ciel L'ArChristmas
広告のお仕事も多いですが、MVとでは作り方は異なりますよね。
音楽の仕事と広告の仕事では求められることが全然違いますね。CMではダークファンタジーのような世界観やマニアックな視点はなかなか受け入れられないので(笑)。私が手掛けたCMは女性をターゲットにしたものが多いので、女性ならではの観点で女性を美しく撮ること、色鮮やかな世界観でCMを作ることを心がけていて、ダークにならないよう色味も多く使うようにしています。



喜田夏記の世界観が濃縮された
コマ撮りアニメーション


喜田監督といえばコマ撮りアニメーションの世界観が特徴だと思います。
2013年からNHK EテレのプチプチアニメにてStop Motion Animation「Liv&Bell」を連載していますが、コマ撮りアニメは一日数秒しか撮れないので、他の仕事と同時進行しながら数か月かけて制作します。制作期間が長く常にセットを設置しておく必要があり、ディスプレイの仕事なども増えてきたこともあって、広いスペースが必要になったので、2017年からは原宿のオフィスに加え、郊外にスタジオを構えました。
今となってはライフワークのようなものですね。最初に映像に入ったきっかけもコマ撮りアニメでしたし、改めて良いアニメーションは時代を選ばず常に良いなあと思っていて、今後もコマ撮りに向き合う時間は作っていきたいです。
Kida
NHK プチプチアニメ「Liv&Bell」 最新作は2020年2月 NHK EテレにてOA予定!!
『ANNA SUI』はコマ撮りとブラックファンタジーの世界観がまさに喜田監督の手腕発揮!とお見受けしました。
ANNA SUIは元々世界観やテイストが個人的にも本当に好きでしたし、「完成されたANNA SUIの世界をいかに映像で、魅力的に演出できるか」という課題で挑んだプロジェクトでした。今まで何度かプレゼンのオーダーもいただいていたのですが、長い期間ニアミスが続いてなかなかご一緒できていなかったんです。 満を持しての今回は、ANNA SUIのNYオフィスに行ってANNAさんご本人にプレゼンさせていただきました。そこでは彼女の世界観を共有し、互いにディスカッションした上で制作に入ることができ、まさにアーティストワーク、最も理想的な制作の形だったと思います。

ANNA SUI - SUI SUI BLACK movie


クライアントの生の声を直接聞くことが作品作りにいい影響をもたらすのでしょうね。
ディレクターが直接クライアントともう少し感覚的に話すことができたりすると、表現の可能性は広がる気がします。
実際にクライアントと向き合い、生の声を聞いて作りあげて行きたいという理想は広告のクリエイションに関わる人なら誰もが持っているはずです。
最近はクライアントもそういうことを求め始めているように感じます。誰しもが発信力を持ち、オリジナルのスタイルで動くことができる時代ですから、私たちも待っているだけではなく、積極的にアプローチしていくことで良い結果が生まれるのだろうと思います。

最近の喜田監督のお仕事の方向性などは?
MVを経て、ライブや舞台といった空間デザインに関わり、最近は国内外の店舗デザインやディスプレイなどのお仕事も増えています。
そんな流れの中で、私にとってのNEXT STAGEみたいなところは意識しています。
ベースを変えるわけではなく今まで培ってきた技術を活かしつつ、映像だけ、グラフィックだけという枠に収まらない、空間全体を演出することをさらにやっていけたらいいですね。元々やっていたコマ撮りアニメもまさにその空間のミニチュア版みたいなものですから。

Kida

主役を引き立てられる
いい味を出してくれるキャストと出会いたい


キャストに対しての希望や好みはありますか?
CMやMVだと、タレントさんものが多いので、キャストさんに関して言うと動きや佇まいでいい味を出してくれる人が好きですね。
例えば以前手掛けた中島美嘉さんのMVでは、移動楽団が楽器を弾きながら放浪するシーンがあったのですが、楽団さん全員に動物の仮面を被せたんです。
すると表情が見えず身のこなしや歩き方だけで存在を語ることになるので、キャストの動きは重要になってきます。
ピエロのような表情ではなく動きで心を表現する不可思議なキャラクターには昔からつい惹かれてしまいます(笑)。
主役であるタレントさんはビジュアルが完成されているので、そこは徹底的に魅力的に見せたい。だからこそ周りは華やかな美しさというよりも、むしろ味のあるタイプがいいなと思います。
Kida
中島美嘉 CD jacket

最後に、今後の目標を教えてください。
文字通り死ぬまで制作をしていたいですね(笑)。建築家である父は76歳になりますが、未だに現役で日々現場を飛び回っています。
クリエイトする仕事には定年がないので、求められて身体が続く限り何かを創造し続けたい。
関わったアーティストさんの中には、新しい魅力を発信しながら変化を続け、新たな存在感を示されている方も多くいます。経験を重ねたいぶし銀系のアーティストは息が長いですよね。表現者として、そんな存在感を目指していきたい。
ここまで10数年仕事をしてきて、同じ映像というジャンルの中でも様々なものに関わっていますが、常に目標も変わりますし、やり遂げた!と思ったことは一度もありません。
映画は撮りたいと思っているので、企画や脚本は作っています。敬愛するテリー・ギリアムやティム・バートンのような実写とアニメが混在する作品が作れたら理想的ですね。
この仕事を始めたときから待ちのスタンスでいたことはないので、時代に合わせて「私ができることはこれです!」と、こちらからアプローチしていく気持ちは忘れたくありませんね。

これからも喜田ワールド全開の作品を楽しみにしています。本日はありがとうございました!

 
喜田 夏記
Natsuki Kida

東京藝術大学 美術学部 デザイン科 大学院 修了。在学中にNYU映画学科に留学、映像制作を学ぶ。
在学中からTV-CM、ミュージックビデオ等の広告映像を制作し始め、1999年より 映像ディレクターとして活動を開始。
2017年に Legolas inc.を設立。映像ディレクションの他、アートディレクション、アニメーション、グラフィック、舞台演出、舞台美術デザイン、店舗・空間デザイン、web、パッケージデザイン等、幅広いジャンルでのクリエイションを手掛ける。
エジンバラ国際映画祭・Vila do Conde(ポルトガル映画祭)・Anifest作品招待、文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品受賞、ヴィクトリア&アルバート美術館(ロンドン)企画展など、海外での発表も多数。
NHKプチプチアニメにてStop Motion Animation「Liv&Bell」連載中。
Legolas inc.代表、PICS management所属。
Web site : https://www.natsukikida.jp/
P.I.C.S site : https://www.pics.tokyo/people/natsuki-kida/

<受賞歴・エキシビション>
文化庁メディア芸術祭 エンターテイメント部門 審査員推薦作品受賞
エジンバラ国際映画祭 作品招待
Vila do Conde(ポルトガル映画祭)作品招待
Anifest(チェコアニメーションフェスティバル)作品出展
SICAF(韓国国際アニメーションフェスティバル)作品招待
V&Aヴィクトリア&アルバート美術館 ロンドン 企画展作品出展
resfest Resmix Electronica 作品招待
onedotzero 08 作品招待
SPACE SHOWER TV Music Video Awards 07 BEST COLLABORATION VIDEO 部門 nominated
SPACE SHOWER TV Music Video Awards 08 BEST ART DIRECTION VIDEO部門 nominated
『記録』on the road collaboration with 8 creators 森山大道コラボレーション作品展出展
gg Lock film & Art Exhibition (スウェーデン映画祭)作品出展