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Director

「ドキュメンタリック」な演出で、既存の広告に価値を問いたい


志真 健太郎
Kentaro Shima

小さい頃の志真監督はどのような人物でしたか?
小さい頃は、僕自身も部活や生徒会などをやっていたのに、真面目で目立ちたがっている人を肯定的に捉えなかった。自分でもなぜそうしてしまうのかわからないんですけど、単純に言うと「ひねくれている」の一言なんだろうなと(笑)。
だから本、映画、音楽が好きで、エンターテイメントに触れることで、どこかひねくれた自分が救われるというか、帳尻を合わせていたのかもしれないなと、今では思います。だから、そんな世界観を描いて、そういう人たちに響く仕事をしたいなと漠然と思うようになっていました。

エンターテイメントの中でも映画・映像を選んだのは?
小説は何度か書いたり、ミステリーの筋書きを真似てみたりといったこともしていました。でも、クラスに小説がめちゃくちゃうまく書ける友人がいて、自分の小説と比べたときに素直に「負けたな」と敗北感を味わったんですよね。
一方で、映画監督の本を読んだときに、これは一人ではなくチームでやることが多い仕事なんだと思って、それなら挑戦できるなと。全くわからない世界だったんで、それもよかったんです。

進学した日本大学芸術学部では、今のBABEL LABEL(バベルレーベル)を構成しているメンバーと出会っていますね。
日本大学芸術学部の映画学科はコースが分かれていて、僕は監督コース、うちの代表の山田久人と、監督の藤井道人は脚本コースの同級生、1学年下の原廣利は監督コースです。僕が4年のときに、山田、藤井、僕、あと友人2人でオムニバス映画を作ってラフォーレ原宿で上映したことがあります。作るまでは結構あるんですが、、、
意識的にプロモーションをして上映する学生って少ないじゃないですか。でも山田や藤井は当時からその意識があって、僕からすると新鮮だったし、素直にすごいと思いました。実際、ラフォーレに1,000人集めましたから。
そこからずっと一緒にいて、赤字で作品を作っていた時代を経て、こうやって今でもみんなで協力し合って映画を撮っている…。こういった仲間が近くにいる環境をよく羨ましがられます。

大学卒業後の道はみなさんそれぞれですが、志真監督は制作会社を経て、海外でドキュメンタリーを撮影されていたと伺いました。
当時ハリウッドで活躍している女優さんに密着してドキュメンタリーを撮れるチャンスがあって、会社を辞めて渡米しました。帰国して、藤井とBABEL LABELを立ち上げました。
もともとドキュメンタリーが好きで、事実を伝える圧倒的な力に惹かれていたので、大学の頃もドキュメンタリーを撮っていました。
僕の家庭はちょっとだけ特殊で医者家系なんです。曽祖父、祖父、父と代々続いていて、自分が4代目になるはずが、期待をされながらもその道に行くことはなく、今こうやって映画やCMを撮っています。医学に関わる祖父にも当然、死が訪れる。それを看取る父は、緩和ケアを専門にしていて、10年間で約3000人以上を看取っているんです。そんな父が祖父の死にどのように向き合うのかに興味が湧いて、二人の様子をドキュメンタリーを撮りました。その映像は大切に持っています。
いつか、その時が来たら公開しようと思っています。
その後、僕自身も結婚して息子が生まれたこともあって、命の連鎖を描くことができたら、意義のあることなのではないかと思っています。

CMを見るのは“生活者“
「ドキュメンタリック」な演出で、生活と地続きで感じてもらいたい


志真監督の作品にはCMやMVでもドキュメンタリーの要素を感じます。
ディレクターとして活動を始めたのが新卒なので22、3歳で、その10年間でCMだけでも100本近くの作品に関わってきました。とはいえ、キャストさんがここに立って、ここにある商品を持ちあげて、2秒で台詞を言って…というCMらしいCMって、ほぼやってきていないんです。
エディターをやっていた時に痛感したのが、15秒・30秒のテレビCMを作り続けてきた人の技術は圧倒的で、自分では勝てないということ。ただ、今はWebCMの案件が多く、ある程度自由にやらせてもらえるからこそ「ドキュメンタリック」な手法を追求できるという面もあります。
CMを見ているのが“生活者”だということも意識しています。仕事や学校、家庭で普通に生活をしている中で、時には思い通りにいかないこと、落ち込むことだってある。そんな生活者に届くように、ドキュメンタリックな演出をして生活と地続きだと感じてもらいたいと思うので。

母校にinゼリー2019 『サンシャイン池崎 母校にさしいれ篇』は、サンシャイン池崎さんがサプライズで母校にinゼリーを差し入れするというドキュメンタリーCMですね。
池崎さんには事前にお会いして全容を説明し、部員の子には「卒業生の先輩が差し入れに来る」とだけ伝えていました。もちろん、彼女にも全て教えて「びっくりしてね」とお願いする方法だってあります。でも、そこのリアルは追求したかったですし、その方が自然な驚きが出ると思いました。普段は「イエー!」と明るい池崎さんが、生徒に真摯に向き合い、真剣に「辛い時にがんばって強くなれる」と言う意外な一面が撮れてよかったなと思っています。
Kida
CMでドキュメンタリックな手法を取ることはハードルが高いように感じますが、どのようなアプローチをされていますか。
CMは15秒、30秒程度で事実を伝えて人の心を動かさないといけない。だから事実を題材にしながらも、音楽で盛り上げたりグラフィカルな映像を使ったりと、劇的な手法を使って演出をしています。自分がやることはシンプルで、一言でいうと、カメラの前で “やばいこと”を起こすこと。“やばいこと”というのは、びっくりすること、発見につながること、見たことがないこと、衝撃的なことなど色々ありますが、そのスタンスはドキュメンタリーも広告も変わりません。

MVも、まるでアーティストのドキュメンタリーを見ているような感覚になって、引き込まれるものばかりです。
MVもアーティストが煌びやかに見えることは当然求められると思うんですが、僕としてはリアルであることが大切で、そのアーティストが持っているバックボーンを含めたドキュメンタリーを作っている、そこに音楽が乗っている、くらいの気持ちで撮っています。その表現においてずっと本人が映っている必要もないですし、役者が出るほうが想像しやすいならその方法を取ろうなどと考えることもあります。
僕自身は昔からHIPHOPが好きで、そのきっかけは般若さんとTHA BLUE HERBさんの影響が多大です。般若さんはいくつかMVを作らせていただいて、THA BLUE HERBさんも作らせてもらって。
原点であるものに繋がったことで、正直MVはしばらく撮らなくてもいいというくらい一段落した感覚はあります。

般若『家訓』MV

THA BLUE HERB『ASTRAL WEEKS/THE BEST IS YET TO COME』MV

「映画を作れる環境を、自分たちの手で作る」
その想いに原点回帰を。


BABEL LABELとしても志真監督としても、今後映画に注ぐエネルギーを最大化していくような流れも感じます。
それはありますね。オリジナルの映画を作っているところってそもそも少なくなってきていますけど、うちは『青の帰り道』『デイアンドナイト』『新聞記者』と、藤井がずっと映画を先導してやっていて、あとはテレビドラマもやりますし。もともとBABEL LABELを作ったのは、それぞれが好きな映画を作る環境を、自分たちの手で作ることが目的だったので。そこに原点回帰出来るように今新たに挑戦している感じです。会社が自主上映などチャレンジし続けてくれるのも大きいですし「仲間うちで作った会社」という以上の価値を出して成長できていると思います。

さきほど演出に関してお伺いしていますが、キャスティングについてのスタンスは?
オムニバス映画『LAPSE ラプス』でいうと、プロデューサーとして入っていた山田、藤井を中心にオーディションをしています。「映画に出たい」という思いを持ってくださっている俳優さんも多いので、オーディションも積極的に参加してくれて「ここをきっかけに」と思ってくれている方々も多いのでありがたいです。そういう人たちと仕事がしたいのでオーディションは大事ですし、彼らのためにも、じゃないですけど、自分たちが映画を作ることはやっぱり必要だなと思います。

BABEL LABEL が描く3篇の未来の物語「LAPSE ラプス」
志真健太郎 監督・脚本 『SIN』

今後手掛ける映画のテーマなどは考えていますか。
まだ長編映画を撮れていないので、ちゃんと形にしていくためにどうするかということもありますし、自分らしい表現をする中で培ってきたものが作品作りに活きるようにしていきたいです。『LAPSE ラプス』もそうですが、報われていない人こそが楽しめるエンターテイメントでありたいですし、社会的に必要なテーマも入れていきたいという思いは持っています。

 
志真 健太郎
Kentaro Shima

映画監督・演出家。1986 年生まれ、千葉県出身。制作会社勤務を経て、2010 年に自主映画を製作してきた藤井道人と BABEL LABEL を立ち上げた。ドキュメンタリックな演出やユニークな企画力が評価を受け、サントリー烏龍茶「新・竜兵会の掟」(18)、CONVERSE「ゾンビコンバース」(18)、Volkswagenコンセプトムービー『神田松之丞 $3,000と2人の男』(19)ほか広告作品多数。又吉直樹 企画・構成のソニーAROMASTIC「元、落語家 ~話が下手な元噺家のハナシ~」 (17)、Y! mobile「恋のはじまりは放課後のチャイムから」(18)などWebドラマや映画「LAPSE」(19)も手掛ける。