見たことのないものを作りたい
山口 健人
Kento Yamaguchi
子どもの頃に好きだったもの、よく見ていた作品などはありますか?
映画が好きでよく見ていました。趣味が映画鑑賞なんて履歴書に書いてあったら最も面白くないものかもしれませんが(笑)、本当に好きで。
小さい頃は『ドラえもん 夢幻三剣士』を「また見るの!?」と言われるほど繰り返して見ていましたし、金曜ロードショーはチャンネル争いに負けて、仕方なく超早起きをして録画を観てから登校。映画観たいから高校さぼって地元の埼玉から東京まで行ったり、学生時代は年間300本位は見ていたかもしれません。今でも週3~4本ほど観ています。
筋金入りの映画好きですね!映画や映像に関わりたいと思うのは自然な流れだったのでしょうね。
大学(早稲田大学)でも文学部の演劇映像コースを専攻しました。実際に映画を作るわけではなかったので、サークルに入って自主映画を作っていました。当時の早稲田は映画サークルが8個ぐらいあって、それぞれアクションや特撮好きが集まったり、シネフィルばっかりなどの特色がありましたが、僕はその中で最も色がないサークルに入りました。選んだのに深い理由はないのですが、雰囲気が良かったし、どこに入っても自分が作りたいものを作るってことは変わらないので。そこで自分でカメラを回して監督をやっていました。
BABEL LABEL(バベルレーベル)に加入するきっかけは?
監督になりたいという信念があったので、就職活動はせず、色々な現場に行きました。そこで出会ったのが当社の監督・藤井道人で、誘ってもらってバベルに入りました。
視覚的に楽しく、
エンタテイメントとしても面白いものを追求
初監督作品は?
一般上映されたものとしては、オムニバス映画『TOKYO CITY GIRL』ですね。「キッスで殺して」という作品を撮りました。女殺し屋の主人公が恋に落ちる恋物語ですね。
そこから映画、CM、PVなど幅広く手掛けるようになりました。
これまで関わった中で、思い出深い作品は何でしょう。
MVでいうと、フレデリックの『VISION』です。楽曲で描かれる未来の多様な可能性、それでも未来を信じて突き進む強さを、バラバラになった映像たちの中を進んでいく、という映像表現で描きました。編集が大変で、毎日ひたすら作業し続けていたので夢の中でも図形が出てくるほどでした(笑)。
ここはMVを作る上でのこだわりでもあるのですが、視覚的に楽しいもの、面白いものを作りたいと思っていて、毎回何かしらその要素は盛り込めるようにしています。『VISION』も繰り返し見てもらっても新しい発見があるような、そんなMVにできたと思っています。
フレデリック『VISION』
編集もご自身で担当されるのでしょうか?
そうですね、ほぼ自分で編集しています。好きなわけではないのですが、どうしても自分でやりたくなってしまうんですよね…。現場で撮影しながら、編集で遊んだらこんな感じになるな、と頭の中で判断しながらできますし。
CMは、TVはもちろんWEBも多く手掛けられています。
TVは瞬発力が必要ですが、WEBは尺が長い分、エンタテインメント作品としても楽しんでもらえるものを作れる可能性がありますし、そうしたいと思っています。
YouTubeで動画を見る前に出てくる広告でも、「CMだから飛ばそう」としている人の手がふいに止まって「面白そう、ちょっと見てみよう」と面白いものを見たいから立ち止まってくれる、そういう作品にしたいと思っています。
そこでいうと、キリン・プラズマ乳酸菌 iMUSE『トレンディの法則』は「続きを見たい!」と思える要素が豊富だと感じます。
沖縄国際映画祭『それでも、僕は夢を見る』
『トレンディの法則』は僕自身もやりたいことをやれたなと自信を持てるものになりました。
企画段階から、とにかく面白いものを作ろう!ということでやった作品でした。みんなが共感して笑ってくれて、他にもこんな「あるある」あったよねとつい話したくなる、作品に仕上がったと思います。
僕自身、トレンディドラマは世代じゃなくて全然見ていなかったので、『東京ラブストーリー』『男女7人夏物語』など人気の作品を手あたり次第借りてきて観たんです。そうしたら、仕事のつもりが普通にハマってしまい、スタッフ全員に「見なよ!」と言ったら次々にハマって。みんな大好きになってしまったので現場の熱量はすごかったですね(笑)
「よーいスタート」から「カット」の間で100点ならOK
キリン・プラズマ乳酸菌 iMUSE『トレンディの法則』は、弊社イー・スピリットがご一緒させていただきました。キャスティングについても伺わせてください。
トレンディドラマの顔だった俳優さんたち“っぽい”方を描きたかったので、織田裕二さんっぽい、鈴木保奈美さんっぽい、江口洋介さんっぽい…そんなキャストさんを募りました。セリフがないので、当時の芝居をできる方というのもポイントでしたね。現代に比べると、やっぱり芝居の質が少し違うので、そこを再現できる気質があるかどうか。それに加えて、オーディションでは髪型や服はいつも通りに来てもらったので、あとは「昭和を感じるかな」「肩パットを付ければそれっぽく見えるかな」と想像力を膨らませて。その場でどうというだけではなく、実際の現場でのトレンディ世界に入り込んだその人を想定してキャスティングしました。
普段のオーディションでは、どういったところを見ていますか?
何というか…態度が悪い人が好きですかね。自己紹介で「今日はがんばります!よろしくお願いします!」というよりは、「芝居好きっす」みたいな、そっけないというか、やることを見てくれという意思を感じる人の方が「面白いな、芝居に自信があるんだろうな」と思います。
迎合してこようとしない人がいいのかもしれないです。自分の芝居とスキルを見て欲しい、そういう意思を感じる人が好きです。
なので、僕自身も「よーいスタート」と声をかけて「カット」で終わるまでが100点なら良いわけで、そこ以外を評価することはあまりないかもしれません。プライベートがどうであれ、映像に映るその人が良ければ、作品としては良いものになると思うので。
観て心が動き、観て想像力が働く。
映像の力を最大限に出す作品を作りたい
2018年は沖縄国際映画祭で熊本県八代市を舞台にした地域映画『それでも、僕は夢を見る』でメガホンを握られています。
映画がきっかけになって今の仕事をしているで、これからも撮っていきたいですね。
僕自身読書も好きで、小説もノンフィクションも幅広く読むのですが、本では「この男はこういう背景があって今はこういう人生で」といったことを文章で書く必要があります。一方、映像ではワンカット、一瞬でそれらを感じさせることができます。映像だけが語りうるものがあって、そこに言葉が不要だったり、セリフを入れることで陳腐になってしまうこともあります。言葉にせず、語らないけどただただ涙する瞬間、抱きしめ合う力の強さ…そういった映像で見えてくるものが見てる人の想像力を働かせる。
視覚的に感じるのが映像の特徴ですし、観て納得するのではなく、自分で発見できる感情に出会うことができるような作品が僕自身も好きですし、それを描くことはずっと意識していきたいことです。
沖縄国際映画祭『それでも、僕は夢を見る』
最後に、今後撮りたい作品があればぜひ教えてください。
映画『ゼロ・グラビティ』が、CGで宇宙を再現してすごいなと思ったのですが、その反面「リアルに宇宙で撮影できたらいいよなあ」と感じました。実際に宇宙で作っている作品はないですから。ただ、予算がいくらかかるのか想像つかないですけど(笑)。MVの撮影で、宇宙でバンド演奏していたら面白そうじゃないですか?
夢が大きい!お話を伺う中で、幼少期から現在も多くの作品に触れていることが山口監督の引き出しの多さとなっていると感じました。本日はありがとうございました
山口 健人
Kento Yamaguchi
1990 年生まれ、埼玉県出身。早稲田大学文学部演劇・映像コース卒業。
大学在学中より映像制作を始め、2016年BABEL LABELに所属。
KIRIN iMUSE WEBCM「トレンディの法則」、世にも奇妙な物語とジョルダン乗換案内のコラボWEB CM「城後波駅」など話題となった広告や、フレデリック『VISION』salu『GIFTEDfeat.RIEHATA』などのMV、映画『それでも、僕は夢をみる』など、様々な領域で監督として活動している。
監督として参加したワイモバイル『パラレルスクールDAYS』が海外の広告賞を受賞。