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Director

植物や昆虫の群衆にインスパイアされた作風と、
商業で培ったタッチ。
デジタルでありアナログである魅力を表現


稲葉 秀樹
Hideki Inaba

デザインから映像制作の道へ


幼少期に興味のあったものや、どのように過ごしていたかを教えてください。
昆虫採集が好きでしたね。小学生の夏休みは、朝4時に起きて、兄弟や友人と近所の森に行って虫を取ったり、昼間に釣りもしたりして過ごしました。夜は、兄弟とゲームをして過ごすような普通のよくいる子供でした。あとは漫画を読んだり、絵を描くのが好きだったので、小学校1~6年生までは絵画教室に通っていました。高校は普通科ではなく美術科に進学し、油絵を専攻していました。ただ、ここが女子30人、男子は私1人といったクラスの構成だったので、周りに甘やかされて過ごしました(笑)。

甘やかされていたのですね(笑)。当時描いていた将来の方向性などは?
この時は将来のこと特に考えていませんでしたね。当時はファミレスやアパレルショップのアルバイトが楽しかったので、そのまま正社員に採用してもらえたらラッキーだな、くらいにしか考えていませんでした。ただ、当時付き合っていた彼女に「絵が好きなのに、どうしてそれを活かして先に進もとうしないの?」と言われてフラれました。絵が描けるという特技を活かそうとしていないことや、何か技術を身につけて働こうとしない姿が歯がゆかったみたいで。そこで悔しくて、絵に関する仕事を探しはじめました。モバイルゲーム関連の会社や印刷工場など、いろいろな会社を受けました。その中で採用されたのが映像制作会社の”ぴーたん”でした。20歳で入社し、そこから映像の仕事をはじめました。

当時はどのような仕事をされていましたか?
入社直後はパソコンを使うことさえも初心者だったので、IllustratorやPhotoshop、After Effects等を基礎から教えてもらいました。バラエティ番組で使用するエピソードや説明のイラスト・CG、タレントや著名人のイラストを描いたり、何でもやっていましたね(笑)。そこからオープニングCGの案件がきたり、番組全体のデザインをさせてもらったりと、少しずつ広がっていきました。新しい技術を習得したり、仲の良いディレクターに喜んでもらえることが嬉しくて、それがモチベーションになっていました。

Inaba

多くの作品を生み出すことで
気づけた自分らしさ


フリーランスになったきっかけは?
2014年頃に同世代のクリエイターの映像が、Vimeoを通し海外で取り上げられたり、活躍しているのを見て、刺激を受けたことが最初の動機です。その頃から僕自身もVimeoへの投稿をスタートしました。「自分の映像」といえるものを作りたかったのかもしれませんね。しばらくするとVimeoを見てくれた海外のプロダクションからMVの制作依頼の連絡が来ました。3ヶ月程かけてオランダのミュージシャンであるBeatsofreenのMV「Slowly Rising」を作り、これが転機となりました。このMVでVimeoのSTAFFPICKを頂き、複数の仕事の依頼を頂けるようになりました。この頃にPICSのプロデューサーとも知り合い、人との繋がりができてきました。ぴーたんの社長も僕の可能性を信じて副業を認めてくれ、ぴーたんの仕事をしながらPICSの案件を受けていました。最終的にぴーたんには8年お世話になり、独立しました。

「Slowly Rising」は第20回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品にも選出されています。
「Slowly Rising」にしっかりしたコンセプトはありませんでしたが、その時の環境や感情を表現していました。仕事の人間関係に悩んだりもしていて、それが自然界で植物が育っていく過程と似ていると思いながら制作を進めていましたね。だれか一人が頑張る仕事ってうまくいかないことも多くあると思うのですが、植物も1種類だけが大きく育っていくと、他の植物は小さかったり、枯れてしまったり。でもそういった状況は長く続かずに、全ての植物は枯れ、その後腐葉土となり、新たな土壌をつくり新しい種子を迎えいれていく。その循環は仕事や人間関係等も同じだと思ったんです。 「Slowly Rising」はこのような思いを映像にしました。


BEATSOFREEN「SLOWLY RISING」MV


フリーターを経てゼロから映像制作をスタートさせたというのは独特のルートだと感じますが、そこで得たことなどはありますか?
フリーで映像制作をするようになり、多くのクリエイターに会い、その作品の個性に感化されてきました。元々テレビの映像を制作していたので、私の作品の個性は無いと思っていました。ただ「Slowly Rising」を制作してから、多くの仕事をさせて頂くなかで、画面の構成や配置・配列、色使い等に自分らしさを見出せてきたかとは思います。色をアニメーションしていくことも大切にしています。映像への自分らしさを、少し得たかもしれませんね。
スノーボードライフブランドである「ESTIVO」のweb movieは、「テレビの映像」と「自分らしい映像」を融合できた映像になったと思います。

ESTIVO design your winter


資生堂のホリデーキャンペーンは色彩豊かな作品が印象的ですね。
クライアントの意向として「トラディショナル」×「モダン」といったある程度の方向性はあったので、それを近世日本の画家である「若冲」×「CG」と捉え、若冲の緻密な静止画をCGで描き起こしたらどうなるかといった観点で表現しました。この作品は「ひとりの美しさがダイナミックに街を変えていくように次々と花が咲く」というストーリーです。若冲の緻密な花を、2Dアニメーションで表現するのは難しいので、3dsMaxでモデリングし、花弁、葉、茎などのパーツを展開図で出力しました。その展開図にClip studioでアニメーションを描き、アニメーション付きテクスチャを作成します。それを再度3dsMaxで読み込み、1種類ずつカラーリングして配置する…という手法を取りました。

SHISEIDO ホリデー 19AW


ディレクションのスタイルやこだわりはありますか?
クライアントや仕事に関わる人に喜んでもらいたいということが私の中では一番大きいです。求められていることに、精一杯答えたいですし、できれば求められている以上のことをしていきたいと、いつも考えていますね。相手の「ここまでやってくれたの?」という驚いた顔をみるのが好きなんです(笑)。また、作品作りの際は画面構成に、自分らしいスタイルがあるのではないかと思います。多くのオブジェクトを意図をもって配置し、画面をオブジェクトで埋め尽くし、その中にある「間」を見出すということが、自分なりのこだわりです。

Inaba
Canigou「Tape」MV


映像のみならず、マルチにディレクションしていきたい


キャスティングについては?
キャストさんが“どういう動きができるのか”がわかると嬉しいですね。紙面上でしか情報を受け取れない場合も多いですし、特技に「ダンス」と書いてあっても、その場で動くのはまた違うということもあるので。事前にどんな動きができるのかの情報があったり、もしくはキャストさんが動きに関して理解がある方だと一緒に仕事しやすいだろうなと感じます。単純に「仕草がかわいい」とかでも全然OKですね。

乃木坂46 堀未央奈 「FUJIBAKAMA」MV


今の仕事の割合や、増やしていきたい分野などはありますか?
資生堂の仕事をやった際、当初はキービジュアルだけを出したのですが、「ポスターに使えそう」「別のところで活かしたい」と話が広がり、商品パッケージやディスプレイも資生堂のデザイナーさんと一緒に作らせていただきました。これが本当に楽しかったので、映像という括りだけではなく、企画の段階から総合的にアートディレクションできるようなことはしていきたいです。資生堂は初の化粧品の案件でしたが、ジャンルにこだわりはありません。自分らしさが活かせたり、自分が担当することで良い表現ができそうな部分であれば何でもやってみたいと思います。また展示会の仕事もしたことがあるのですが、技術スタッフと皆で現場で作り上げていくことが高揚感があり、面白みを感じたので、チームで作り上げていくような仕事もチャレンジしていきたいですね。

最後に、今後の目標を教えてください。
新しい技術を取り入れて映像制作だけでなく、新たな分野に挑戦していきたいです。

表現の基盤となっている幼少期のお話から、稲葉流モーショングラフィックスの手法までお話いただきました。稲葉監督、ありがとうございました。
 
稲葉 秀樹
Hideki Inaba

2017年 Red Hot Chili Peppers「Getaway Tour Viz」に映像作家として参加。 海外のアーティストとコラボレーションした作品は、Pictoplasma、Reading & Leeds Festivals、This is Colossal、The Vergeなどの映画祭やメディアで上映、掲載されている。第20回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に作品選出。P.I.C.S. management所属。
Web site : https://hide.tokyo/
P.I.C.S site : https://www.pics.tokyo/people/hideki-inaba/

<受賞歴など>
2019年 Vimeo Staff Picks (Tape)
2019年 Best of Stash 2019: MUSIC VIDEOS
2019年 London International Animation Festival : [ Invitation screening ]
2016年 Punto y Raya Festival [ Invitation screening ]
2016年 Adult Swim OFF THE AIR Shapes
2016年 Holland Animation Film Festival [ Invitation screening ]
2015年 Vimeo Staff Picks BEST OF THE MONTH (Slowly Rising)